2012年10月10日水曜日

Elephant ダミアン・ライス (Damien Rice)

確かに主人公のコイツはクズ野郎ですが,大変「正直」なクズ野郎です。要するに「おいおい,お前だってわかってんだろ?体だけの関係だって。もうこっちには相手がいるんだから」ということなのですが,実際のところ,心の底にこういう気持を隠している男はいると思います。
ところで,「だけどお前じゃダメなこともある,あいつ(妻)にしかできないことがあるんだよ」の箇所は一体何を意味しているんでしょうか?この部分,比喩表現だと考える人,逆に文字通り主人公の妻が画家だと考える人と様々ですが,いずれにしても,主人公の浮気相手と妻は別の人間なのだから,浮気相手が逆立ちしても妻にはなれないという意味でしょう。
この曲に対して,海外の歌詞サイトで大変面白い解釈を披露してくれた人によると,この曲はDamien Riceのアルバム「9」の中で,9 Crimes,,The Animals Were Gone と共に3部作を構成し,その最後を締めくくる曲なのだとか。最初の9 Crimesは主人公の浮気を,2曲目のThe Animals Were Goneは主人公jが妻の元へ戻ることを扱った曲であるそうです。そして最後に来るのがこのElephantなのだとか。いかがでしょうか?
Yes, he's a jerk but a very honest one.  I guess that's exactly what some guys bury deep in their heart, like "Oh, come on, you know that.  I just want to have a friend with benefits 'cause I already have someone."
Anyway, what do the lines "But you can't paint an elephant, Quite as good as she" in the lyrics mean?  Some say it's metaphorical and others literal.  Either way, it just means the mistress cannot be or replace his wife how hard she may try because they're different person.
The person who posted a very interesting interpretation on a website where people talk about song lyrics said the song is the last part of the trilogy in Damien Rice's album, '9'.  9 Crimes, The Animals Were Gone and Elephant.  The first one depicts the protagonist having an affair and the second one his coming back to his wife.  Then comes the third one, Elephant.  What do you think?
Elephant  (Damien Rice)
This has got to die
This has got to stop
This has got to lie down
Someone else on top

You can keep me pinned
It's easier to tease
But you can't paint an elephant
Quite as good as she

And she may cry like a baby
And she may drive me Crazy
'Cause I am lately lonely

So why d'you have to lie?
I take it I'm your crutch
The pillow in your pillow case
It's easier to touch

And when you think you've sinned
Do you fall upon your knees?
And do you sit within your picture?
Do you still forget the breeze?

And she may rise, if I sing you down
And she may wisely cling to the ground
Cause I am lately horny

So why would she take me horny?
What's the point of this song? Or even singing?
You've already gone, why am I clinging?
Well I could throw it out, and I could live without
And I could do it all for you
I could be strong
Tell me if you want me to lie
'Cause this has got to die

This has got to stop
This has got to lie down, down
With someone else on top

You can both keep me pinned
'Cause it's easier to tease
But you can't make me happy
Quite as good as me

Well you know that's a lie.

こんなこと終わりにしなきゃ
こんなこともう止めなきゃ
そのためにしばらく会うのはよそう
他にもっと大事な人がいるだろ?

すがりつきたいならそれもいい 
あの手この手で気を持たせてれば
大した男じゃないからすぐ落ちる
だけどお前じゃダメなこともある
あいつ(妻)にしかできないことがあるんだよ

このことがあいつにバレたら,多分子どものように泣きわめく
当然こっちも頭に来るだろ?
なにしろここんとこほったらかされて欲求不満なんだよ

だからお前も思ってることを正直に言ってみろ キレイごとなんて言わなくていい
言われた通り,お前の支えになってやるし
寂しいなら抱いて慰めてやってもいい
誘えばすぐにその気になるぞ 

お前はどうなんだよ?不倫して後ろめたいと思ったら
ひざまづいて神に許しでも乞うわけか?
それとも何事もなかったかのように,幸せそうに家族写真の中に納まんのか?
いい加減,あの時の熱い気持ちを思い出せよ

まあお前と切れたって,あいつのところへ戻るけどな
そりゃあいつは利口だから,戻ってもそれなりの扱いだ
すぐ元通りってわけにはいかないな
まだこっちの浮気の虫が騒いでるってあいつはちゃんとわかってるから

そんなにすぐに許してくれるわけない
だけどお前との関係だって,ただの体だけの付き合いだろ? 
わざわざ続けなきゃいけない理由があるか?
お前の気持ちだってもう冷めてる
なのにそこまでして続ける理由はないだろ?
お前がそうしてくれって言うんなら
あいつを捨てて,一人で生きてくこともできる
そうしてほしいならやってやる
強い人間にだってなれると思う
だから,キレイゴトを言ってほしけりゃそう言えよ
そしたらいくらでも言ってやるけど
とにかくこのままじゃ先はない

こんなこともう止めなきゃ
そのためにしばらく会うのはよそう
他にもっと大事な人がいるだろ?

すがりつきたいならそうしろよ あの手この手で気を持たせてれば
大した男じゃないからすぐ落ちる
だけどわだかまりは残ったままだ
めでたしめでたしって訳にはいかない
それならいっそ好きにさせろよ

けどこれもウソだってわかってんだよな?

(補足)

ここに掲載した歌詞とヴィデオの歌詞は同一ではありませんが,こちらに掲載した方が正式なものであるようです。

この曲の主人公とその不倫相手ですが,ここではW不倫という設定で和訳しました。双方に相手がいるわけですね。

というのも,そういう設定だと仮定すると,一貫性のある訳文ができるからで,特に「And when you think you've sinned, Do you fall upon your knees?And do you sit within your picture?(お前はどうなんだよ?不倫して後ろめたいと思ったら,ひざまづいて神に許しでも乞うわけか?それとも何事もなかったかのように,幸せそうに家族写真の中に納まんのか?)」の箇所が生きます。

逆に主人公の側だけに相手がいるとすると,この部分がしっくりこない。特に「And do you sit within your picture?(それとも何事もなかったかのように,幸せそうに家族写真の中に納まんのか?)」の意味がはっきりしません。

それにしてもドロドロです・・・・・。

後半,急に曲調が激しくなるのですが,この部分は主人公の怒りを表しているというのが海外サイトでの解釈でした。

(余談)

いやもうこの曲は大変でした。海外サイトの助けがなければ到底和訳などできなかったでしょう。予想だにしない内容でした。とにかく曲調に騙されます。

Volcanoの時も感じたのですが,このDamien Rice「身勝手で情けない男」を歌わせたら右に出る者のない逸材なんじゃないでしょうか。似た様な芸風で思いつくのが,Ben Folds (Brick, Songs for the Dumped)ですが,それよりも一層「身勝手」感が漂います。

無論,Damien Riceの曲はこの2曲より他に知らないので,ここでそのように断じることはできませんが,第一印象が意外と当たっていることが多いのは皆様もご存じでしょう。確かに友達にはなりたくないタイプですが,彼の書く歌詞には非常に興味があります。

14 件のコメント:

  1. すごく丁寧でわかりやすい訳詞ですね。音楽を聴いたことがなくても、読みたくなります(^-^)
    次も楽しみにしています。

    返信削除
    返信
    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。ご覧くださる皆様に支えられてどうにか運営しておりますが,更新頻度だけが取り柄なので今後もできるかぎりこのペースで続けていくつもりです。
      ところで別館(twitter)でも余談を展開しております。お時間があればそちらへもおいでください。お待ちしております。

      削除
  2. 僕もDamien Rice自体詳しいほうではないのですが
    (反捕鯨派だということは知ってますが(笑))
    Delicateって曲はVolcanoと、このElephantと並んで良い曲の匂いがします。
    ……Volcanoもこの曲も思い切り曲調にだまされた僕なので断言はできませんが。

    しかし「腹の内で溜め込んでる感情を爆発させるのが歌手なんだよなぁ」と
    思うことは多々ありますが、彼は何と言うかいうなれば性癖まで晒してるくらい
    ストレートにこういう歌詞を書くので
    モテない高校生の僕にとって恋愛云々に関しては全然分かりませんが
    「このくらい正直な人間になってみたいもんだ」とちょっとした感銘を受けちゃいます。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。Damien Rice,語り口はフォークな感じですが,語っている内容は完全に演歌。また己を曝け出すという意味においては,まさにヒップホップ,ある意味ラッパーな感じがいたします。
      ところで,どらもん様は高校生でいらしたのですね。Damien Riceは恋愛のお手本にするにはちょっとどうかと存じますが,モテという一点に絞ってみれば,今のうちにMaroon 5のAdam Levine辺りを参考になさって研鑽をお積みになれば,数年後には輝かしいモテの実績が残せるのではないでしょうか。(ただ私も参考にしておりますが何故かまだ効果が全く実感できません)。

      削除
  3. Damien Riceといえば(以下略)・・・って、これvestigeさんのマネです(笑)
    語り口や曝け出しっぷりは似てますが、ダメ男ぶりは見習わないでもらいたいです!でも、この曝け出す正直さが好きなんだろうなあ、とか想像できます。

    それにしても、奥様は寛大な方ですね。正直なダメ男と一緒に暮らすには、寛大でいるしかないし、すでに諦めているのかもしれませんけど。

    Damien Riceと彼はいつか共演してくれるだろうと楽しみにしてます。そのとき、ここでvestigeさんが和訳してくださった曲だったらいいな。




    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。Damien Riceを庇うわけではございませんが,私も詳しくないので本当に奥様がおいでになって,この曲が実体験なのかは存じません。フィクションという可能性もございます。ただ全く同様の経験がなくここまでの歌詞が書けるかというと・・・。いやいやアーティストたるもの(以下略)・・・ai_i様のマネです(笑)
      Damien Riceと彼が共演した折に備えて,本館の彼の投稿を増やさねばなりませんが,Ed Sheeranの曲は,和訳しやすいものとそうでないものがあるので,後者に当たると投稿が滞りがちになります。
      前者の代表は,Small Bump, Cold Coffeeなどで,後者の代表がUNI, Give Me Loveでした。まだ前者の曲が残っているといいのですが・・・。

      削除
  4. 初めまして。Ben Folds FiveのBrickの背景を調べていてこちらにたどり着きました。Damien Riceは私が勝手に情けないおっさん心の友(私は女ですが)にしていたのですが、この曲の内容にはびっくりです!どちらにしろ情けないことには変わりないんですが。解説がなければさっぱり意味が分からなかったでしょう。どうもありがとうございます。

    そこで一つ質問があるのですが
    So why would she take me horny?
    がどうして「そんなにすぐに許してくれるわけない」になるのか分からなかったので自分なりに調べてみたのですが、歌詞が
    So why would she take me thorny?
    になっているのを見かけました。この場合も同様の意味になりますか?thornyだと、奥さんに未練たらたらなんですけど…ということになるんでしょうか。ご回答いただければ嬉しく思います。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。ご質問の件ですが,So why would she take me hornyは,直訳すると「どうして彼女がサカリのついた状態の自分を受け入れてくれるだろうか?(反語)」というほどの意味です。
      要するに,主人公は浮気した訳ですから,その後しばらくは身を慎んで,反省しているところを見せない限り,彼女(妻)には受け容れてもらえないということだと私は理解しております。
      歌詞の文言に関しては,私は純国産なので,CDを見ない限り,どちらが正解なのかはわかりません。
      ただ,仮にそこがthornyであったとしても,要するに「困った男である自分」という点は変わらないので,大意にさほど影響はないと思います。
      無論,ネイティヴの方やバイリンガルの方であれば,そのあたりの微妙な違いがおわかりになるのかもしれませんが,私にはまだそこまで理解できるほどの英語力はありません。せめてこの回答がお役に立つよう願っております。
      さて,別館(twitter)でも余談を展開しております。お時間があればそちらへもおいでください。お待ちしております。

      削除
    2. おお、早速のご回答、どうもありがとうございました!大変すっきりいたしました。またDamien Riceを聞き直したいと思います。vestige様のおかげで、感情込めて一緒に歌えそうです。ちなみにBen Folds Fiveも好きで、どちらもメロディラインの美しさから入ったのですけれど、歌詞は双方ともツッコミどころ満載ですね。

      twitterの方も訪問させていただきたいと思います。今後もvestige様のご活躍を期待しております。

      削除
    3. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。お役に立ててようございました。確かに私もBen FoldsとDamien Riceには同じニオイを感じます。「情けない男」臭とでも申しましょうか(お2人のファンの方,大変申し訳ありません)。
      しかしその一方で,その情けないところを隠そうとしないところに2人の器の大きさと潔さを感じます。

      削除
  5. こういう状況は、身近でも案外よく耳にするものですが、それにしても、こんな曲にしてしまって、この人は大丈夫なんでしょうか。これでは1人目も2人目も敵に回してしまいそうです。どちらもこの人にとっては、とても大事な存在でしょうに。とても美しい作品にして、少なくともどちらかは良い気分にさせてあげるというようなパターンのものはあるように思うのですが。(先日のQuestion of Lust などはそれに近い感じがあったと思います)リードでもあったように、この人が正直すぎるんでしょう。もしかすると、こういう正直な人はなんだか憎めなくて、結局どちらからも許してもらえたりするのかもしれません。なんだか憎めない人というのは、確かにいると思います。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。この方,Volcanoでも私小説的世界を展開しておいでです。あまりに正直で,ここまで正直だとある意味「勇者」「剛の者」といった色彩さえ帯びて参ります。
      仮にこの一見「捨て身」に見える姿勢が,相手を操るテクだとしたら,Damien Rice,芸風は違えど,師匠Adam Levine並の使い手なのかもしれません。

      削除
  6. 古い記事にコメント失礼いたします。
    paint elephant の箇所は比喩表現で、「確かに浮気はしてるけれども、お前とのセックスじゃ妻のときのようにたたないんだぜ。」(直接的すぎてごめんなさい)という捨て台詞のように解釈していました。
    この曲のひとつ前の曲も、animal は浮気に怒り狂った妻と解釈すれば個人的にはすっきりします。彼は比喩表現が上手で、様々な解釈ができて面白いアーティストですね。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。自分のことはなるべく良く見せたいと願うのが人の常だと思うのですが,彼の場合はその点を潔いまでに無視したいわば「捨て身」の芸のように思えてなりません。
      とはいうものの,逆にここまで開き直られるとそれ以上は追及しにくくなるのも事実であり,そういう意味で,関ヶ原の戦いで西軍につきながら,敵陣である東軍のまっただ中をわずか600の軍勢で突っ切り,無事退却した島津義弘を思い出しました。

      削除