2015年4月11日土曜日

Fast Car トレイシー・チャップマン (Tracy Chapman)

言葉も出ない。歌詞を読んでまさにそうなりました。ご紹介くださった方はこの曲の歌詞を「詩の朗読会」に喩えておいででしたがまさしくその通り。Tracy Chapmanが描き出す心象風景に圧倒されました。ハリウッドで多用されているので出来ればこの表現は使いたくないのですが,曲を聴きながら「主人公(の彼女)と一緒に(人生の)旅を経験した」ような気がしました。
Speechless.  I was just speechless when I read the lyrics.  The person who suggested this song corresponded the lyrics to a poetry reading.  I couldn't agree more.  I was almost mesmerized by the panorama that the singer Tracy Chapman described in the lyrics.  I really hate to use this cliche phrase which Hollywood movies use too often but listening to the song, I was "going on a journey with" her (the protagonist).
Fast Car  (Tracy Chapman)
(Jonas Blue & Dakota)

You got a fast car
I want a ticket to anywhere
Maybe we make a deal
Maybe together we can get somewhere
Any place is better
Starting from zero got nothing to lose
Maybe we'll make something
Me myself I got nothing to prove

You got a fast car
I got a plan to get us out of here
I been working at the convenience store
Managed to save just a little bit of money
Won't have to drive too far
Just 'cross the border and into the city
You and I can both get jobs
And finally see what it means to be living

See my old man's got a problem
He live with the bottle that's the way it is
He says his body's too old for working
His body's too young to look like his
My mama went off and left him
She wanted more from life than he could give
I said somebody's got to take care of him
So I quit school and that's what I did

You got a fast car
Is it fast enough so we can fly away?
We gotta make a decision
Leave tonight or live and die this way

So remember when we were driving driving in your car
Speed so fast I felt like I was drunk
City lights lay out before us
And your arm felt nice wrapped 'round my shoulder
And I had a feeling that I belonged
I had a feeling I could be someone, be someone, be someone

You got a fast car
We go cruising, entertain ourselves
You still ain't got a job
And I work in a market as a checkout girl
I know things will get better
You'll find work and I'll get promoted
We'll move out of the shelter
Buy a bigger house and live in the suburbs

So remember when we were driving driving in your car
Speed so fast I felt like I was drunk
City lights lay out before us
And your arm felt nice wrapped 'round my shoulder
And I had a feeling that I belonged
I had a feeling I could be someone, be someone, be someone

You got a fast car
I got a job that pays all our bills
You stay out drinking late at the bar
See more of your friends than you do of your kids
I'd always hoped for better
Thought maybe together you and me find it
I got no plans I ain't going nowhere
So take your fast car and keep on driving

So remember when we were driving driving in your car
Speed so fast I felt like I was drunk
City lights lay out before us
And your arm felt nice wrapped 'round my shoulder
And I had a feeling that I belonged
I had a feeling I could be someone, be someone, be someone

You got a fast car
Is it fast enough so you can fly away?
You gotta make a decision
Leave tonight or live and die this way

その車
スピードが出るんでしょ?
アタシはここから抜け出して
他のところへ行ってみたいの
だからお互い協力しない?
2人で一緒にやれば
なんとかなるかもしれないよ
どんなとこだって
ここよりはマシだから
ゼロからの出発だけど
どうせダメで元々だから
一緒なら何かやれるかも
ただアタシはこのままで
別に困ってないけどね

その車
スピードが出るんでしょ?
2人でここから抜け出せる
計画を思いついたんだ
今までずっとコンビニで
働きながらやっとのことで
ほんの少しお金を貯めた
何もそんなに遠くまで
行くことはないんだよ
ちょっと州の境を越えて
都会に行ければそれでいい
お互い仕事が見つかれば
生きている実感ってのが
やっとわかるかもしれないよ

ねえパパは
問題を抱えてる
毎日毎日酒浸り
だけどそれが現実なんだ
年取ってるから働けないって
パパは言い訳してるけど
そんな風には全然見えない
ママは誰かと駆け落ちして
パパを捨てて出て行った
パパと一緒じゃ手に入らない
もっとマシな生活を
ママはしたかったから
パパの世話をする人が
どうしてもいなきゃダメだから
それで学校をやめたんだ
これが今までの暮らしだよ

その車
スピードが出るんでしょ?
だけど飛んでここから逃げ出せるほど
スピードが出るのかな?
そろそろ覚悟を決めなくちゃ
今夜ここから逃げ出さないと
死ぬまでずっとこのままで
生きてくことになるんだよ

今も覚えてる
あの時その車に乗って
2人で一緒に走ってた
すごくスピードが出てたから
酔ったみたいにクラクラしたよ
目の前に華やかな
都会の灯りが広がっていた
この肩を抱く
その腕の温りを
今もまだ覚えてる
自分の居場所はここだって
すごい人になれるかもって
なんだかそんな気がしたよ

車は飛ばせるヤツだった
特に何をするでもなく
車で街を流してた
アンタは無職のままだけど
アタシはスーパーで
レジ打ちの仕事をしてる
この状況も
きっとこれからよくなって
アンタに仕事が見つかって
アタシの給料も上がるんだ
今住んでるこの場所から
いつか2人で出て行って
もっと広い家を買い
郊外に住むんだよ

今も覚えてる
あの時その車に乗って
2人で一緒に走ってた
すごくスピードが出てたから
酔ったみたいにクラクラしたよ
目の前に華やかな
都会の灯りが広がっていた
この肩を抱く
その腕の温りを
今もまだ覚えてる
自分の居場所はここだって
すごい人になれるかもって
なんだかそんな気がしたよ

車は飛ばせるヤツだった
アタシは暮らしをまかなえる
マトモな仕事についたけど
アンタは出かけて夜遅くまで
バーで飲んだくれている
仲間と出かけるばっかりで
子どもの顔もまともに見ない
昔はいつだって
ステキな未来を夢見てた
2人一緒なら
きっと夢がかなうって
そんな風に思ってた
だけどもうどうすれば
いいのか自分じゃわからない
このままじゃ先がない
だから飛ばせる車に乗って
こうして走り続けてる

今も覚えてる
あの時その車に乗って
2人で一緒に走ってた
すごくスピードが出てたから
酔ったみたいにクラクラしたよ
目の前に華やかな
都会の灯りが広がっていた
この肩を抱く
その腕の温りを
今もまだ覚えてる
自分の居場所はここだって
すごい人になれるかもって
なんだかそんな気がしたよ

車は飛ばせるヤツだけど
ここから飛んで逃げ出せるほど
スピードの出る車なの?
そろそろ覚悟を決めなくちゃ
今夜ここから逃げ出さないと
死ぬまでずっとこのままで
生きてくことになるんだよ

(余談)

各連の冒頭に繰り返し登場する「You got a fast car」。全く同じ文面でありながら,最初と最後では意味合いが大きく違ってきます。最初の頃は主人公にとって,いわば「希望」を象徴していたこのfast carですが,後半では相手が自分から「逃げ出していくこと」の象徴に変わります。そしてそのその変化が彼女の置かれている環境の過酷さを表現しているような気がします。

寡聞にして彼女のことは全く知らなかったのですが,この曲を聴き,己の不明を恥じました。まさに名作。歌詞から喚起される情景の瑞々しさと美しさ。悲惨な内容であり,曲全体に絶望の匂いを感じるにもかかわらず,聴き終った後で妙に清々しい気持ちになるところがこの曲の素晴らしさでしょう。

この曲は,アメリカやイギリスをはじめとして,英語圏の各国でチャートに入っています。踊れるわけでもなく,聴いて明るい気分になるわけでもない,むしろ気分が滅入ってしまうような内容のこういった曲が堂々チャートに上がってくるあたり,それらの国々の実力を見せつけられたような気がします。

9 件のコメント:

  1. ありがとうございます。取り上げて頂けるとは思わず驚きました。
    先の大会の際、和訳サイトにわざわざリクエストをするのだから、自分なりに詞が素晴らしいと思える曲にしようと考えて最終的にこの曲にしました。

    その世界に取り込まれて追体験しているような気持ちになりますし、サビに至っては「車窓を流れる夜景」「車のスピード感や振動」「相手の腕の感触」「その時胸に満ちていた感情」などがない交ぜになって再現されます。全て鮮やかでありながら、全てが遠いというか、上手く言えませんが「幻視」というのはこういう感覚なのではないかとさえ思います。

    世の平均よりは音楽を聴く方だと思うのですが、かつてこの曲を素晴らしいと思えた時に、自分なりに音楽を聴いてきて良かったと感じたのを覚えています。
    (あまり英語力のない私の場合は)ある程度洋楽を聴く体験をしてからでなければ、この曲に引っ掛からなかっただろうと思ったからです。表向きは本当に飾りの無い簡素な作りでありながら、ここまで素晴らしいと思う曲は珍しい気がします。
    余談内の言葉を借りるならば「歌詞が情景を喚起する」、この曲はそのことに尽きるのかもしれませんね。改めて「アーティスト」という肩書きを持つ方々のそら恐ろしさを感じます(笑)

    改めまして、この度は本当にありがとうございました。

    最後に蛇足ながら、紹介だけ。
    洋楽のカバー(日本語)でしっくりきた経験はほぼ皆無なのですが、これだけは今のところ例外です。
    https://youtu.be/HlPTPiU0DQg

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    1. コメントありがとうございます。ご紹介くださった件の日本語カヴァーを聴き圧倒されました。本来なら乗るはずのない英語のリズムに日本語の歌詞を見事に乗せている点は勿論ですが,なによりその訳詞の正確さに思わず唸りました。素晴らしいカヴァーのご紹介,本当にありがとうございました。

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  2. 私もこの曲大好きでした。80年代にFMラジオとかMTVで流れていて、よく聞いていました。(また、長いこと、男性が歌っていると信じていました)メロディーの美しさ、印象的なリフ、個性的な歌声、それから、確かに清々しさがして、それだけで聴いていたように思います。まさか、こんなストーリーを持った詩だったとは。歌に繰り返しのフレーズはつきものですが、ストーリを追うごとにそのフレーズの意味が変化していく。主人公はずっと車に乗っているようなのに、フレーズを手掛かりに過去や未来へと時間が移り変わっていく・・。素晴らしい構成だと思います。結局、この詩の主人公は賢いし、強い。逆境に流されたり屈したりせずに、問題をちゃんと見極めて、打開策を打ち出していると思います。いつもより良い未来を、夢見ることができている。そういうところが、この暗い内容の曲が、清々しく感じられるところなのかな、と思いました。

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    1. コメントありがとうございます。この主人公は,人生において一歩も前進できない相手とは対照的に,コンビニでのアルバイトからスーパーでのレジ係そしてまともな仕事へと,社会における「階段」を一歩一歩ではありますが自分の力で確実に登っています。してみると,人生の追い越し車線(fast lane)を走れる才能(fast car)を持っていたのは,相手ではなく実は主人公の方で,それがために相手のプライドが傷つき,こういう結末になってしまったのかもしれません。

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  3. めっちゃ好きな曲です!
    Nice & Smoothがsometimes i rhyme slowという曲でこの曲をネタにラップしてますが、それもめっちゃいいですよ〜

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  4. すげえ変な訳、ここまで曲解してるの初めて見た。

    ランボー訳した時の小林秀雄かっての

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    1. びっくりw あたかも自分が正義だと言わんばかりの物言いですねw

      私は最近vestigeさんのブログに辿りついて、訳してくださっているのを拝見している者ですが
      曲解も何も、まず”匿名すげえ変な訳”さん、自身が CARを車と訳している方を曲解などと断定している時点でw 英語の意味合いの幅の広さを理解されているのか疑わしいです。

      また時代などで、言葉の感覚や使われ方も刻一刻と変化していきますし、同じ国でも地域によって様々だったりもします。
      そして、日本語とは大きく違う点で、英語は本当に会話の流れや文章の流れなどで、いわば言葉自体が空気を読んでるのかと思うほどに、意味合いを変えてきますし、例外もたくさんありますからね。
      というか、二言語以上を習得していて、かつ多種多様な国、方達と接してる方なら、言葉の感覚等に正解はないと分かると思うのですが..

      曲解などと他人を批難されるのでしたら、ご自身で正しいと思うモノを産み出し、披露されてはいかがでしょうか。
      どこの国の方かは存じ上げませんが、まだ現代の日本にこの様な後進的な方がいらっしゃるのでしたら、酷く残念です。

      匿名さんのおかげで、vestigeさんのブログへの、念願の初投稿が叶いました。感謝申し上げます。

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    2. She様,初コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。今後もご都合のよい時にまたコメントをお寄せください。お待ちしております。

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  5. 取り上げてくださって嬉しい大好きな曲です
    これを聞いた後にBruce SpringsteenのDownbound Trainを聞くとまたアンサーソングのようにきこえて、また一つの人生を旅した気分になります

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