2012年5月11日金曜日

Far Away ニッケルバック(Nickelback)

ヴィデオで主人公が倒木の下敷きになった時は,てっきり彼が亡くなったのだと思い,これはMat KearneyのCloser To Loveの伏線かと思っていましたが,彼は助かったんですね。ヴィデオでは,消防士という設定でしたが,主人公は兵士かもしれません。
ところで,この曲が面白いのは,歌詞の最後の部分の16行を主人公の恋人(元恋人?)が語っており,それ以外の部分は,主人公である男性が語っているという点です。この2つの部分は,「諦められないんだ,ずっと好きだった/同じ気持ちだったの,ずっと気持ちは変わってない (That I love you, I have loved you all along)」という表現を共有しています。
またこれ以外の箇所でも,それぞれ「想いがかなって,いつまでも一緒にいてくれたら/ずっとそばにいて,もう一人にしないで」「生きていられないよ/大丈夫よ」と「二度と会えないのなら/もうどこへも行かないから」と呼応するスタイルになっています。さらに(この点がこの曲の白眉だと思うのですが),話者が男性から女性に変わると曲も転調します。
それにしても,今回の和訳で最も苦労したのが,I love youという剛速球表現をいかに馴染みのある日本語表現にするかでした。「愛してる」なんて普通の日本人なら照れて言えませんから。それとも私だけ?
I thought it's a prequel of "Close To Love (Mat Kearney)" when I saw the video implying the protagonist was killed by a fallen tree.  He's not.  In the video, he is portrayed as a fire fighter but it could be a soldier as well.
What makes the song interesting is that the narrator of the last 16 lines is the second person (protagonist's girlfriend or ex.?) and that of the rest is the protagonist (a guy).  These two parts share the lines, "That I love you, I have loved you all along."
They correspond to each other with expressions like "you'll be with me and never go/hold on to me, and never let me go,""stop breathing/keep breathing" and "I don't see you anymore/I'm not leaving you anymore."  Furthermore, I think it's the best part, when the narrator changes, the key changes, too.
In translating into Japanese, the hardest part for me was to express the line "I love you" in natural sounding Japanese.  Most Japanese are too shy to say "I love you" in Japanese.  Or am I the only one?
Far Away  (Nickelback)
(plan B: in case the first video is not available)
This time, This place
Misused, Mistakes
Too long, Too late
Who was I to make you wait
Just one chance
Just one breath
Just in case there's just one left
'Cause you know,
you know, you know

[CHORUS]
That I love you
I have loved you all along
And I miss you
Been far away for far too long
I keep dreaming you'll be with me
and you'll never go
Stop breathing if
I don't see you anymore

On my knees, I'll ask
Last chance for one last dance
'Cause with you, I'd withstand
All of hell to hold your hand
I'd give it all
I'd give for us
Give anything but I won't give up
'Cause you know,
you know, you know

[CHORUS]
So far away
Been far away for far too long
So far away
Been far away for far too long
But you know, you know, you know

I wanted
I wanted you to stay
'Cause I needed
I need to hear you say

That I love you
I have loved you all along
And I forgive you
For being away for far too long
So keep breathing
'Cause I'm not leaving you anymore
Believe it
Hold on to me and, never let me go
Keep breathing
'Cause I'm not leaving you anymore
Believe it
Hold on to me and, never let me go
Keep breathing
Hold on to me and, never let me go
Keep breathing
Hold on to me and, never let me go

今この場所で言っておきたい
やっちゃいけないこともしたし,傷つけたりもした
長い間放っておいたし,今さら遅すぎることもわかってる
そんな資格なんかなかったのに
だから一度でいい
それだけでいいから
これが最後でも
もし許されるのなら
言わせてくれ
だって

諦められないんだ
ずっと好きだった
切ないよ
離れてた時も
ずっと遠くからいつも
夢見てた
想いがかなって
いつまでも一緒にいてくれたらって
二度と会えないのなら
もう生きていられないよ

その前に跪くよ
どうか最後に一度だけ踊ってくれないか?
一緒なら強くなれる
どんな試練にだって
その人のためなら耐えてみせる
2人のために
頑張れるけど
諦めるのだけは
イヤなんだ
だって

諦められないんだ
ずっと好きだった
切ないよ
離れてた時も
ずっと遠くからいつも
夢見てた
想いがかなって
いつまでも一緒にいてくれたらって
二度と会えないのなら
生きていられないよ

ずっと遠くにいた
近くにいられなくて,そのまま放っておいたよね
ずっと離れてたから
何も出来ずに,時間が過ぎてしまった
わかってるよ だけど・・・

お願いだから
このままそばいて
そしてどうか
その声で聞かせてくれ:

同じ気持ちだったの
ずっと気持ちは変わってない
今まで離れてたことなんて
もういいの 忘れましょう
大丈夫よ
もうどこへも行かないから
信じて
ずっとそばにいて,もう一人にしないで
大丈夫よ
もうどこへも行かないから
信じて
ずっとそばにいて,もう一人にしないで
大丈夫よ
ずっとそばにいて もう一人にしないで
心配しないで
だから,ずっとそばにいて もう一人にしないで


(余談)
余談はtwitterに移行すると言っておきながら,ここでまた余談を披露するのもどうかと思うのですが,なにしろ,あちらには140字の制限があるもので。

それにしても,こういう直球勝負のラヴソングを和訳するたびに,彼の地とこちらの文化背景の違いに愕然とします。ご存じのように,私はJames Morrisonのファンなのですが,それは彼の曲には,この点に関して一種の「照れ」が感じられるから。実際,I love youという(直球)表現はあまりなく,もっと遠回しな表現をしています。

歌詞の内容をつぶさに読むと,どちらかといえば,「振られ男の恨み節」に近いような気もするのですが,しかし,ここまで直球だとWのタグをつけないわけにはいきません。同じ表現の共有といい,対比表現といい,転調といい,技巧の粋を凝らしたまさにロック・バラードの「新古今」と言えましょう。


8 件のコメント:

  1. vestigeさんの余談が好きな自分にとっては、140字の制限なしは大歓迎です!

    直球に関しては、遠回しな表現だと気づいて貰えない場合もあると思うので
    そういう時のために直球も必要ではないかな〜と・・・

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    1. コメントありがとうございます。なるほど仰る通り,直球表現には,いわば実験における対照群(control group)としての存在意義があるわけですね。その点までは考えが及びませんでしたが,確かに直球あってこその変化球。直球と変化球を投げ分けられてこその名投手でございましょう。己の不明を恥じ入るばかりでございます。またなにかありましたら,是非ご意見をお聞かせください。お待ちしております。

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  2. まさかこんな技巧に富んだ曲とは思いませんでした。
    まだまだ“オタク”の風下にも・・という感じです。

    このような技巧はきっとじわりじわりと
    潜在意識に訴えかけてくるのでしょうね。

    直球勝負が気持ちの良い彼らですが、
    そんなボディーブローも効かせてきたりと、
    ネイティブの人に受けがいいのはそれ故かなと感じました。

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    1. コメントありがとうございます。次々と繰り出されるI love you, I miss youのコンビネーションをスウェイしながら,一方で技巧に富んだ歌詞を損なうことなく,尚且つさほど違和感のない日本語にするという,メイウェザー並みの戦い方を要求される曲でしたが,勝敗はともかく判定にまでは持ち込めたような気がいたします。ボディ・ブローという表現をお使いのところから見て,twitterの方もご覧くださっているのですね。個人的にオタクな方は大歓迎なので是非今後もお話をお聞かせください。お待ちしております。

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  3. はじめまして。
    このアルバムに付いていた歌詞カードの訳にずーっと違和感を感じていたので、vestigeさんの訳を見て気分すっきりです。ありがとうございました!

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    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。この曲,最後の16行で話者が主人公の男性から相手の女性に変わっていることがわからなければ,その素晴らしさが半減してしまいますが,歌詞だけ見て訳しているとそのことを容易に見逃してしまいがちです。
      実は私も最初は意味がわからず悩みました。鍵は「I wanted, I wanted you to stay, 'Cause I needed, I need to hear you say」の箇所でしょう。これが次のThat I love youで始まる16行に続いているということに気付くかどうかが重要です。
      しかし,趣味で好きなだけ時間と情熱をかけられる私と異なり,訳者の方には締切やそれ以外の制約もおありです。おそらく私には想像もできないご苦労をなさっておいででしょう。いずれにしろ拙訳がポレンタスキー様のお役に立ててようございました。(ポレンタは私も決して嫌いではありません)。
      さて,別館(twitter)でも余談を展開しております。お時間があればそちらへもおいでください。お待ちしております。

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  4. 毎回、楽しく和訳を拝見しています。
    vestigeさんの和訳が一番しっくりきて、そしてわかりやすくて好きです。
    余談も楽しませていただいています。

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    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。わかりやすさと引き換えに失っているものも決して少なくはないと思いますが,wara iki様のお役に立ててなによりです。

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