2013年3月17日日曜日

All I Need マット・カーニー (Mat Kearney)

ご覧いただくとおわかりかと思いますが,曲のタイトルはAll I Needで,おそらくそれは歌詞に登場する相手を表しています。かなりロマンティックですよね?ただこの曲には「捻り」があります。
確かに主人公にとっては,相手は「必要なものはそれだけ」なのですが,相手にとってもそうかというと実はそういう訳でもない。歌詞の中に登場するこの部分「I'm holding on to you, holding on to me, Maybe it's all we got but it's all I need.」ですが,ここが「but it's all WE need」と複数形になっていないことに注目してください。つまり主人公と相手の気持ちには温度差があるということです。おわかりいただけたでしょうか?
As you see, the song title is "All I Need" and it probably represents the second person in the lyrics.  Pretty romantic, huh?  The song, however, has a twist.
To him (the protagonist) all he needs is the second person but it doesn't seem to hold true for the second person.  That's why he says "I'm holding on to you, holding on to me, Maybe it's all we got but it's all I need."   Please not that he doesn't say "but it's all WE need."  So to me he loves her very much but she doesn't that much.  Does this make sense?
All I Need  (Mat Kearney)
Here it comes it's all blowing in tonight
I woke up this morning to a blood red sky
They're burning on the bridge turning off the lights
We're on the run I can see it in your eyes
If nothing is safe then I don't understand
You call me your boy but I'm trying to be the man
One more day and it's all slipping with the sand
You touch my lips and grab the back of my hand
The back of my hand

Guess we both know we're in over our heads
We got nowhere to go and no home that's left
The water is rising on a river turning red
It all might be OK or we might be dead
If everything we've got is slipping away
I meant what I said when I said until my dying day
I'm holding on to you, holding on to me
Maybe it's all gone black but you're all I see
You're all I see

The walls are shaking, I hear them sound the alarm
Glass is breaking so don't let go of my arm
Grab your bags and a picture of where we met
All that we'll leave behind and all that's left
If everything we've got is blowing away
We've got a rock and a rock till our dying day
I'm holding on to you, holding on to me
Maybe it's all we got but it's all I need
You're all I need

And if all we've got, is what no one can break,
I know I love you, if that's all we can take,
the tears are coming down, they're mixing with the rain,
I know I love you, if that's all we can take.

A pool is running for miles on the concrete ground
We're eight feet deep and the rain is still coming down
The TV's playing it all out of town
We're grabbing at the fray for something that won't drown

今夜遂にこの時がやって来た 
やたらに風が吹き込んでくる
目覚めると血のように真っ赤な空が広がってた
橋の上では物が燃え,街の灯りは消えてしまった
お互いギリギリの状態だって
その目を見ればわかるんだ
確かなものが何もないなら
どうしてそうなのかわからないよ
頼りにならないかもしれないけど
本当はそうなりたいと思ってるんだ
明日になれば,なにもかも失くしてしまう
この唇に手を当てて,喋ろうとするのを止めてから
この手を取ってくれたけど
手を繋いでくれたわけじゃない
ただ手を引かれただけ

[chorus]
多分2人ともわかってる 
お互いどうすればいいのかわからなくて
こうして途方に暮れてるってことが
これからのこともわからないのに
後戻りできるわけでもない
川の水かさが増えて,水が濁ってくるみたいに
今まで抑えてたものが溢れてくる
ひょっとしたら,これでいいのかもしれないけど
もしかしたら,もうおしまいで先はないのかも
ただこうして何もかも失くしてしまっても
あの時の言ったことは本心なんだ
死ぬまでずっと変わらない
このまま諦めるなんてイヤなんだ
だからどうか信じてほしい
灯りがみんな消えてしまって
辺りが暗闇に包まれても
その姿だけははっきり見えるよ
他には何も見えなくても

頑丈な壁もこうして揺れてる
どこからか危険を知らせる音が聞えてくる
ガラスも砕け散ってるから
しっかりこの腕を掴んだら,決して離れていかないで
出会ったあの場所の写真を持って
そこにあるバッグだけを手にしたら
他のものなんて置いていけばいい
それだけあればいいんだから
たとえ何もかも失っても
支えになるものは変わらずに
死ぬまでずっとこの手にある
このまま諦めるなんてイヤなんだ
だからどうか信じてほしい
もうそれしか残ってないけど
必要なものはそれだけだから
他には何も要らないよ

こうして残ったものがたとえ何でも
何にも負けないくらい確かなものなら
それしかなくても構わない
何があっても,この気持ちは変わらない
そう思ったら涙が溢れてきて
降る雨と混じりあってこの顔を濡らしていく
それだけあればもう他はいらない
この気持ちは変わらないよ

コンクリートの地面の上に溜まった水が
途切れることなく何マイルも続いてる
水はもう8フィートくらいになってるけど
雨もまだ止みそうにない
TVは現場の様子を放送してる
なのに決して水浸しにならない
そんなものをつかもうとして
こうして必死にあがいてるんだ

(補足)

この曲のなかで個人的に白眉だと思うのが「You touch my lips and grab the back of my hand, The back of my hand」と「Grab your bags and a picture of where we met, All that we'll leave behind and all that's left」の箇所です。

目の前に情景の浮かぶ後者も素晴らしいのですが,それ以上に前者が圧巻です。直訳すれば「手で唇に触れて(=おそらく喋るなという意味)手の甲を掴んだ」という意味ですが,この仕草は大人が子どもに対してする仕草です。これによって,相手が主人公を頼りないと思っていて,主人公はそのことに傷ついているということがわかります。

(余談)

海外の歌詞サイトにあるコメントによると,この曲はHurricane Katrinaの被害にあったMat Kearneyの友人のことを歌っているらしい。確かに,歌詞に登場するblowing, blood red sky, they're burning on the bridge, rain, poolなどの単語を見るとそれも頷けますが,その話の真偽はともかく,個人的にはこれらの単語はすべてメタファーだと思っています。

あくまでも私見ですが,Mat Kearneyの曲にはメタファーが多用されていて,それを字義通りとらえたのでは理解できないことが多い気がします。大学では英文学を専攻したらしく,いわゆるクリシェイ(決まり文句)でないメタファーが歌詞に多く登場しますが,メタファーそれ自体は大変美しいものの,なにしろ独自なものだけに解釈に大変苦労します。

主人公にとってAll I Needは相手だったようですが,今の私にとってのAll I Needは・・・時間ですね。


3 件のコメント:

  1. 今回も唸るほどの名訳でございました。とりわけ、

    "You call me your boy but I'm trying to be the man
    頼りにならないかもしれないけど
    本当はそうなりたいと思ってるんだ
    -----------------------------
    We're grabbing at the fray for something that won't drown
    なのに決して水浸しにならない
    そんなものをつかもうとして
    こうして必死にあがいてるんだ
    "

    この箇所が秀逸でした。その手腕にただただ脱帽です。高級料亭で懐石料理を頂いた後のような上品な満足感に包まれました。(実際には食べたことはありませんので、想像の世界ですが…)

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    1. コメント並びに過分なお褒めのお言葉ありがとうございます。Mat Kearneyは個人的に大変好きなアーティストなのですが,一方向やミダス王,はたまた師匠などに比べると,知名度という点でやや劣るので,それに比例してヴュー数やコメント数が控えめなのが残念なところです。イメージの鮮やかな美しい歌詞を書くアーティストですが,それだけにそのイメージが掴めないと和訳に非常に苦労いたします。今回のこのAll I Needも,存在を知ってから今回投稿するまで1年近くかかりました。

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    2. vestigeさんをして、やはりそれだけの「寝かし」を必要とした歌詞だったのですね。唸るほどの名訳、熟成された高級ワインとして味わった方が良さそうです。(下戸なため…以下略)その他の歌もワイン蔵をさっそくチェックさせて頂きます。

      寡聞にして存じ上げないアーティストさんだったため、おばちゃんは『お、きょうはポールマッカートニーなのね』と大いなる勘違いとともにPlayボタンと押し、歌を拝聴して恥じ入りました。

      素晴らしい名曲と名訳、ありがとうございました。

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