2012年12月7日金曜日

Tomorrow We'll See スティング (Sting)

以前こちらでStingのRoxanneを取り上げました。この曲は娼婦を好きになった男性が,その仕事をやめてくれるよう相手を説得するものでしたが,彼は同様のテーマで,TSTV(transvestite transsexual:)の娼婦を主人公にしたこの曲も書いています。またこの他にも,有名なゲイのQuentin Crispを主人公にしたEnglishman In New Yorkも発表しています。思うに,彼は「周囲と違う」や「自分に正直に生きる」というテーマに思い入れがありそうです。
ところで,この曲を和訳しているうちに,私はこう考えるようになりました。前述のRoxanneの歌詞で,主人公は相手にそういう生き方をやめるよう求めています。最初私は彼女がそういう風に生きているのはそうするより他に生活する方法がないからで,彼からの申し出を迷わず受けるだろうと思っていました。しかし今はそうとも言い切れません。ひょっとすると,彼女はその生き方が合っているのかもしれず,彼の申し出を偉そうだと感じて断るかもしれないと思えてきました。
Before I posted his "Roxanne" which describes a guy asking a prostitute he loves to stop living that way for him.  Sting also wrote this song, depicting the life of a prostitute who is a transvestite.  He also wrote "Englishman In New York" describing the life of a famous gay icon Quentin Crisp.  To me the idea of being different or being true to yourself seems to attract him very much.
Translating his, I come to think this way: In the lyrics of Roxanne, the protagonist tries to convince the second person (a prostitute) to stop living that way.  I first thought she's living that kind of life because she doesn't have any other choice and she would accept his offer without any hesitation.  I'm not sure about it anymore.  Maybe she loves her way of life and might decline his offer, thinking he's too judgmental..
Tomorrow We'll See  (Sting)
The streets are wet
The lights have yet
To shed their darkened luster on the scene

My skirt's too short
My tights are run
These new heels are killing me

A second pack of cigarettes
It's a slow night, but there's time yet
Here comes the john from his other life
He may be driving to his wife
But he slowed down, take a look
I've learned to read them just like books
It's already half past ten
But they'll be back again

Head lights in a rainy street
I checked, made sure it's not the heat
I wink, I smile, I wave my hand
He stops, he seems to understand
A small transaction we must meet
I tell him that my heart will break
If he's not a generous man
I step into his van

They say the first's the hardest trick
But after that it's just a matter of logic
They have the money I have the time
Being pretty's my only crime
Ask what future do I see
I say it's really up to me
I don't need forgiving
I'm just making a living

Don't judge me
You could be me in another life
In another set of circumstances

Don't judge me
One more night
I'll just have to take my chances
For tomorrow we'll see

A friend of mine, he wound up dead
His dress is stained with color red
The next of kin, no fixed abode
Another victim on this road
The police just carted him away
But someone took his place next day
He's home by Thanksgiving
But not with the living

Don't judge me
You could be me in another life
In another set of circumstances

Don't judge me
One more night
I'll just have to take my chances

I know it's just not in my plan
For someone to care who I am

I walk in the streets for money
It's the business of love, hey honey, come on!
Don't leave me lonely, don't leave me sad
I'll be the sweetest five minutes you'll ever have

Don't judge me
You could be me in another life
In another set of circumstances

Don't judge me
One more night
I'll just have to take my chances
And tomorrow we'll see

雨が降って地面が濡れてる
街を照らす街灯も消えたままで
この場所に似合いの怪しい光も
まだどこにも感じられない

穿いてるスカートは短か過ぎるし
タイツも伝線してる
この新しいヒールも合わなくて
足が痛くて仕方ない

煙草ももう2箱目
今夜は出足が鈍いけど,大丈夫まだ時間はある
ほら,そういってると誰か来た
別の世界から来た人だ
奥さんのとこへ帰るところかも
だけど,スピードを落として眺めてる
この仕事をするうちに
客の気持が読めるようになった
本が読めるようになったみたいに
時間はもう10時半を回ったけど
大丈夫 きっとあいつらはまたくるよ

雨に濡れた街に車のヘッドライトが反射する
「サツ」じゃないって確かめてから
ウィンクして笑って見せて手を振るんだ
お客が車を止める 通じたみたい
それからちょっとした値段交渉
だからこう言ってやる
泣かせたくなかったら
ケチケチしないではずんでよって
それから相手の車に乗る

まわりはこう言うよ
キツイのは最初だけで
次からはもう当たり前になる
だって向こうにはお金があって,こっちには時間があるんだから
見た目がかわいいのが運の尽き
これから将来のどうするかって?
そうだね,どっちにしても自分の気持ち次第
悪いなんて思ってないよ
食べてくためにやってるんだから

あれこれうるさく言わないでよ
何も特別おかしいわけじゃない 
誰だってこうなったかもしれないんだ
周りの状況が今とは少し違ってたら

偉そうに批判なんかしないでよ
あと一晩だけ
危ない橋を渡らなきゃならないんだ
明日になれば答えは出てる

友達で結局死んじゃった子がいたよ
着てたものが,血の色で真っ赤に染まってた
親戚の子でね,ホームレスだった
この界隈じゃこういう子は少なくないから
警察も淡々とあの子を運んで行った
次の日には,もう他のヤツがあそこに立ってたよ
感謝祭の日,懐かしい家には帰れたけど
あいつはもう息をしてなかった 

あれこれうるさく言わないでよ
何も特別おかしいわけじゃない 
誰だってこうなったかもしれないんだ
周りの状況が今とは少し違ってたら

偉そうに批判なんかしないでよ
あと一晩だけ
危ない橋を渡らなきゃならないんだ
明日になれば答えは出てる

そんなこと考えられないよ
何もせずに大切にしてもらえるなんて

お金のために街をうろついてるけど
ビジネスで,「愛」を売ってるだけなんだから ねえいいだろ!
ひとりぼっちになりたくない だって悲しくなるんだもの
「うん」と言ってくれたら
最高の5分間をプレゼントするよ

あれこれうるさく言わないでよ
何も特別おかしいわけじゃない 
誰だってこうなったかもしれないんだ
周りの状況が今とは少し違ってたら

偉そうに批判なんかしないでよ
あと一晩だけ
危ない橋を渡らなきゃならないんだ
明日になれば答えは出てる

(補足)

TV:transvestiteとは,異性の服装をする人のことを指す言葉で,ゲイやGID(性同一性障害)とは異なります。海外の歌詞サイトでは,主人公をtransvestiteと表現していますが,Sting本人はこちらの動画 http://www.youtube.com/watch?v=3w-4SXCjxH0 でtranssexualと表現しています。彼が混同しているのかもしれませんが,詳細は不明です。

リード文ではtransvestiteと申しましたが,英語歌詞にそれを表す箇所がほとんどないのにお気づきでしょうか?唯一それらしいのが,「友達で結局死んじゃった子がいたよ,着てたものが,血の色で真っ赤に染まってた(A friend of mine, he wound up dead, His dress is stained with color red)」の箇所。英語はhe, his dressとなっていて,男性だということがわかります。

実はこの曲,Stingのパートナー(正式に結婚していないので奥様ではありません)のTrudie Stylerが制作(プロデュース)した「The Boys From Brazil」というドキュメンタリーに使用された曲ですが,この映画がブラジルの10代のTV娼婦を扱ったものだからです。

この映画を見ていないので正確なことはわかりませんが,この映画の内容とはあまり関係がないような気がするものの,このタイトルは,Ira Levineの有名な小説並びにグレゴリー・ペック主演の映画「ブラジルから来た少年(The Boys From Brazil)」を本歌にしている思います。

(余談)

個人的にこの曲の白眉は「あれこれうるさく言わないでよ,何も特別おかしいわけじゃない,誰だってこうなったかもしれないんだ,周りの状況が今とは少し違ってたら」の箇所だと思います。実際「ひょっとしたら自分もそうなっていたかも」と考えるだけで,かなり客観的に物事を見られるような気がします。


5 件のコメント:

  1. Stingについてそんなに分かっているわけでもないんですが、
    Shape Of My Heartといいこの曲といい、
    主人公の心理が人間らしいというのと、
    情景描写が優れているからだと思いますが、
    曲を聴いていると
    映画を観ているような気分になります。

    話は変わりますがEnglishman In New Yorkはドライな男が主人公だと
    メロディでなんとなく決め付けていたので
    少し意外に感じました。

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    1. コメントありがとうございます。仰る通り,私も同様に感じております。補足でも述べたように,この曲はドキュメンタリーに使用されたものですが,まるでこの曲自体がドキュメンタリーと言えるほど,情景描写に優れていると思います。
      Englishman In New Yorkについては,そう考えていたのはなにもどらもん様だけではありません。実は私もつい最近までそう考えておりましたし,日本人の大半はそのように考えていると思いますが,その点忽せにしてしまっては,到底歌詞のもつメッセージを理解することはできません。
      この曲に限らず,Stingの曲は,他のアーティストのそれに比べ,背景情報の果たす役割が,歌詞の理解において非常に大きいような気がいたします。

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  2. LGBTに関しては詳しくありませんが、Transvestiteの場合、単なる女装であり、性器の転換手術済みとは限らず、娼婦は務まらないと思われるので、やはりここはTranssexualが正しいと思われます。

    "English Man In New York"に関してですが、(人のブログで大きなお世話だとは思いますが)、補足させて下さい。

    この曲の日本語訳をブログなどで公開されてる方、何人かいらっしゃるようですが、Quentinについて言及されてるのは、少なくともGoogle検索にヒットするブログとしては、こちらと、もうお一方しかおらず、歌詞の大意が掴めてると思える訳は一つも見つかりませんでした。
    かく言う私も何年もこの曲を歌ってきましたが、最近まで "English Man" とはSting自身のことだと思ってました。確かに、Stingがこの曲を書いた当時、彼はNewYork在住でしたから、"Legal Alien"とはSting本人のことでもあるのですが、主人公がQuentinであることは、Sting本人の口から何度も語られています。(こちらの英語のサイトにインタビュー記事が載ってます: http://www.crisperanto.org/recordings/sting.html )

    "English Man In New York"は、ゲイがテーマであるというよりも、Quentin CrispというSingularな(風変わりな)存在を題材にして、社会の中で異質である事を肯定するというのが曲の主訴であり、異邦人であっても、異質でもあっても "Be yourself, No matter what they say" (何言われようと自分自身であれ)と、Coda(曲の最後)で繰り返されてます。 
    Stingは "it's not really about being gay. It's about being yourself, never conforming. That's what the song is really about." と、上記インタビューで語ってます。

    ちなみに、Quentin Crispは、"English Man In New York"のPV ( http://youtu.be/d27gTrPPAyk )に何度も登場する、あの老婆風(?)の人物が本人であり、歌詞の一部にある "Manners maketh a man"とは、Quentinの著作からの引用です。

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    1. コメント並びに詳細かつ丁寧な解説をありがとうございます。私の言葉足らずのため,こちらをご覧くださる皆様に誤った情報をお伝えするところでしたが,tetz様のお蔭でそれを免れることができました。お礼を申し上げます。
      また,このコメントを拝見するだけで,Englishman In New Yorkに対するtetz様の熱い思いがひしひしと伝わって参ります。今後この曲を取り上げる際には,お寄せいただいた情報をもとに,細心の注意を払って取り組みたいと存じます。
      さて,別館(twitter)でも余談を展開しております。お時間があればそちらへもおいでください。お待ちしております。

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  3. 皆さん、仰られている通り、情景の描写が詩的で良いですね。また、確かに「自分の力で生きている誇り」というのが詩の中に感じられる、と思いました。気になったのは、「明日になれば答えは出てる」のところ。最初、何の答え?と思ったのですが、要は、こういう生活をずっと続けていくのは難しいだろう、と彼女も思っている、ということでしょうか。危険そうですし、若いうちだけでしょうし。tomorrowはとりあえず続いていくわけですが、その先にどんな答えが待っているのか。Stingはどう考えてこのタイトルをつけたのか、聞いてみたいです。(お忙しいようでしたら、返信はご心配なく)

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