2014年1月21日火曜日

The Rising ブルース・スプリングスティーン (Bruce Springsteen)

この曲は2002年に発表されています。そのために主人公は消防士であり,2001年9月11日に世界貿易センター(WTC)ビルに取り残された人々を救出するためビルに登っていった彼の視点から描かれた曲だと考えられています。私の解釈もこれと同じであり,また他の解釈と比べても圧倒的に説得力があるのですが,実は歌詞の中にはそいうった言葉は登場せず,主人公の職業を表す具体的な記述はありません。
The song was released in 2002.  That's one of the reasons people believe it's written from the perspective of a fire fighter who climbed up the World Trade Center building to rescue people who were left there on September 11, 2001.  That's also what I believe and far more convincing compared with any other interpretations.  In the lyrics, however, no such word appears.  There's no specific reference to what the protagonist does for living.
The Rising  (Bruce Springsteen)
(Chesire Fire & Rescue Choir over)
Can't see nothin' in front of me
Can't see nothin' coming up behind
Make my way through this darkness
I can't feel nothing but this chain that binds me
Lost track of how far I've gone
How far I've gone, how high I've climbed
On my back's a sixty pound stone
On my shoulder a half mile of line

Come on up for the rising
Come on up, lay your hands in mine
Come on up for the rising
Come on up for the rising tonight

Left the house this morning
Bells ringing filled the air
I was wearin' the cross of my calling
On wheels of fire I come rollin' down here

Come on up for the rising
Come on up, lay your hands in mine
Come on up for the rising
Come on up for the rising tonight

Li,li, li,li,li,li, li,li,li - li,li, li,li,li,li, li,li,li - li,li, li,li,li,li, li,li,li

There's spirits above and behind me
Faces gone black, eyes burnin' bright
May their precious blood bind me
Lord, as I stand before your fiery light

Li,li, li,li,li,li, li,li,li - li,li, li,li,li,li, li,li,li - li,li, li,li,li,li, li,li,li

I see you Mary in the garden
In the garden of a thousand sighs
There's holy pictures of our children
Dancin' in a sky filled with light
May I feel your arms around me
May I feel your blood mix with mine
A dream of life comes to me
Like a catfish dancin' on the end of my line

Sky of blackness and sorrow
Sky of love, sky of tears
Sky of glory and sadness
Sky of mercy, sky of fear
Sky of memory and shadow
Your burnin' wind fills my arms tonight
Sky of longing and emptiness
Sky of fullness, sky of blessed life

Come on up for the rising
Come on up, lay your hands in mine
Come on up for the rising
Come on up for the rising tonight

行く手には何も見えず
ここまで登って来る間も
なにひとつ見えなかった
そんな暗闇の中を
こうして手探りで進んで行く
間違いなくそこにあるとわかるのは
体につながったこの「鎖」だけ
一体どこまでやってきたのか
それさえもうわからない
元いたあの場所から
どれだけ遠くまで来ているのか
どこまで登ってきたのかも
今はもうわからない
背中には60ポンドの「石」をのせ  *
この肩で半マイルも続いていく
そんな「紐」を担いでる  **

ここまで登って来てくれ
そしてこの手を取ってくれ
ここまで登って来て
今夜一緒に歩きだそう

今朝家を出てきた時 ***
けたたましくなる鐘の音が
あたりの空気を包んでた
天職の十字のマークを身につけて ****
火の出るような勢いで *****
大急ぎでここまでやって来た

ここまで登って来てくれ
そしてこの手を取ってくれ
ここまで登って来て
今夜一緒に歩き出そう

この上とこの下には
人々の魂が残ってる
顔はもう見えないけれど ********
その瞳はまだ燃えている
そのかけがえのない命を思うと
この場からは離れられない
ああ神よ
その燃え上がる光の御前に
今こうして立ちましょう

Mary
あの庭で会おう
数えきれないため息が
聞えてくるあの庭で
そこには2人の子どもの姿を描いた
大切な絵がいくつもあって
光が溢れる天国で
みんな一緒に踊ってる
お前の両腕で
抱きしめられる感触や
2人でひとつの存在に
なっていくのを感じたい
夢見てた人生に
ようやく手が届きそうだ
ちょうど自分が釣り人で
引き上げた糸のその先に
ナマズがかかって暴れてるように

天国に近いこの場所では
色んなものが見えてくる
闇と不幸だけじゃない
愛もあるし涙もある
涙も栄光もそこにはある
他人を思いやる広い心や
不安を抱えた弱い心
記憶や面影も蘇る
今夜はその燃える風が
この両腕を満たすはず
憧れと空しさが同居する
満ち足りて恵まれた人生
天国に近いこの場所では
そういうものが見えてくる

ここまで登って来てくれ
そしてこの手を取ってくれ
ここまで登って来て
今夜一緒に歩き出そう

(補足)

一般的には以下のように言われています。

*          a sixty pound stone・・・酸素タンク
**        a half mile of line・・・・・火用のホース

***       house・・・・・・・・・・・・・主人公の家とする説と,消防署(fire house)とする説があります。    
****  cross・・・・・・・・・・・・・消防士が着るコートのマーク(下の画像)を表しているそうです。

*****   wheels of fire・・・・・・・急いでいる様子という説と消防車という説があります。
****** spirit・・・・・・・・・・・・・(幽)霊という意味で,WTCで亡くなった人々を指すそうです。

(余談)

最初の連に登場するthis chain that binds meのchain(鎖)ですが,これが具体的に何を表しているのかは明らかではありません。仮に主人公が消防士だとしても,それが他の消防士とつながる命綱なのか,あるいは破滅へと向かう運命の鎖なのか,「それとも救助にいかねばならない」という職業的な縛りなのか解釈は様々です。

ただ,主人公が消防士であるという仮定を捨ててしまえば,これは現状に行き詰まっている一人の人間が,なにかの「事件」をきっかけに人生をやり直そうと決意し,そこから踏み出そうとする曲と捉えることも可能です。そしてその場合,前述のchainそしてa sixty pound stoneやa half mile of lineは,主人公の背負っている「責任」や彼を縛っている「しがらみ」と考えることができます。

また,この曲は比較的イメージの掴みやすい前半に対して,後半は抽象的な表現が増えるため,具体的に何について語っているかがはっきりしません。そのため,主人公が消防士であるとする説では,Maryからはじまる連以降は,場面は「あの世」に移っており,主人公が人生を回想していると考えられています。

これに対して,主人公が別の職業の人間だと考えると,この部分は主人公がなにかの「事件」に遭遇して得た啓示ととることもできるでしょう。いわばクリスマス・キャロル的展開というわけです。したがって,前者の消防士説を取れば,この曲の主題は「ヒーロー,天国に召される」であり,後者では「破滅からの再生」ということになるかと思います。

個人的には後者の方に共感を覚えますが,前半の記述が圧倒的に前者に有利であるのと,発表された時期やその経緯から考えて,前者と考えるのが妥当でしょう。

ところで,以前こちらでBirmingham City Councilの合唱団によるThe Only Way Is Upという曲を取り上げたことがあります。http://oyogetaiyakukun.blogspot.jp/2014/01/the-only-way-is-up-yazz-plastic.html
この曲もそれと同じく,現役消防士による冒頭のカヴァーで知った曲ですが,曲の内容を考えるとカヴァー・アレンジの方に説得力があるように思われます。

2 件のコメント:

  1. 実は、リアルタイムでは、ブルース・スプリングスティーンはほとんど聞きませんでした。メッセージ性が強いのに、怖れをなしていたのだと思います。でも、今になってこうして聞いてみると、いいじゃない!と思います。詩もアレンジも、まさに"rising"のイメージをしっかりと具現化できていて、さすがです。この曲を聴くと励まされる。特に当時のアメリカでは心に響いたことでしょう。Sky of blackness and sorrow の連が特にいいですね。抜けるような青空のイメージが広がる原詩もよいですが、この部分の対訳の、解釈と言葉の選び方。対比された名詞のバランスが良く、読んだときにリズムがあって「読み心地」が良い。素晴らしい訳だと思いました。

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    1. コメントありがとうございます。前半に比べて後半が大変訳しにくく,そのためかなり苦労いたしましたが,そのように言ってくださると苦労も報われる気がいたします。

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