2015年4月4日土曜日

Hold My Hand ジェス・グリン (Jess Glynne)

日本語には多様な二人称が存在し,この私でも即座にいくつか例を挙げることができます。またそういった二人称は豊富な背景情報を伴っており,例えば,その二人称の指す人物の社会層,教育レベル,そして話者がその人間に対して抱いている感情などがそこから読み取れます。これに対して,英語の二人称は,単数・複数に関わらず,YOUたったひとつしかありません。そのため大変にわかりにくくなっています。
この曲の場合,プレ・コーラス(ブリッジ)で主人公が「どんなに傷つけられたって,そんなものに負けたりしない,だってこっちには,運がついてるんだから」と言っているにも関わらず,コーラス(サビ)の部分では相手に「ねえダーリン,お願い手を繋いでよ,だってもうこれ以上,ひとりぼっちでいたくない,わかるでしょ?ひとりぼっちで生きてくなんて,そんなのはイヤなんだ」と頼んでいて筋が通りません。だとすれば,それぞれの箇所に登場する相手は別の人間だと考えるべきでしょう。コーラスの相手は主人公が想いを寄せる人物,そしてプレ・コーラスの相手は主人公に敵意を抱いている人間です。
Japanese language has a wide variety of the second person pronoun.  I can instantly name some of it without any difficulty.  Each of them carries so much information about itself like the background of the person/people it represents.  For example, such as their social status, education level and how the narrator feels about them.  Meanwhile, English has only one single pronoun, 'you' which is both singular and plural.  It's pretty confusing for me.
In the chorus, the protagonist asking the second person 'you' to "Darling, hold my hand, Oh, won't you hold my hand, Cause I don't wanna walk on my own anymore, Won't you understand? Cause I don't wanna walk alone," while saying "Break my bones but you won't see me fall, oh, The rising tide will rise against them all, oh" in the pre-chorus.  They contradict each other.  So the second person in each part should refer to different people.  While 'You' in the chorus refers to a person the protagonist cares, it seems to refer to someone who has an adversary to her in the pre-chorus.
Hold My Hand  (Jess Glynne)
[Verse 1]
Standing in a crowded room and I can't see your face
Put your arms around me, tell me everything's OK
In my mind, I'm running round a cold and empty space
Just put your arms around me, tell me everything's OK

[Pre-Chorus]
Break my bones but you won't see me fall, oh
The rising tide will rise against them all, oh

[Chorus]
Darling, hold my hand
Oh, won't you hold my hand?
Cause I don't wanna walk on my own anymore
Won't you understand? Cause I don't wanna walk alone
I'm ready for this, there's no denying
I'm ready for this, you stop me falling
I'm ready for this, I need you all in
I'm ready for this, so darling, hold my hand

[Verse 2]
Soul is like a melting pot when you're not next to me
Tell me that you've got me and you're never gonna leave
Tryna find a moment where I can find release
Please tell me that you've got me and you're never gonna leave

[Pre-Chorus] + [Chorus]

[Bridge]
Don't wanna know
That feeling when I'm all alone
So please don't make me wait, cause I don't wanna break
And I don't wanna fall
When you're next to me
Can tell I'm not afraid to be
That you don't make me wait, and never let me break
You never let me fall

[Chorus]

[Verse 1]
人でごった返してる
そういう部屋に佇んでると
なかなか顔が見えないの
だからお願い抱きしめて
大丈夫だって教えて欲しい
自分では
寒々として何もない
空っぽな場所を延々と
走り続けてる気がしてる
だからお願い抱きしめて
大丈夫だって教えて欲しい

[Pre-Chorus]
どんなに傷つけられたって
そんなものに負けたりしない
だってこっちには
運がついてるんだから

[Chorus]
ねえダーリン
お願い手を繋いでよ
だってもうこれ以上
ひとりぼっちでいたくない
わかるでしょ?
ひとりぼっちで生きてくなんて
そんなのはイヤなんだ
覚悟ならちゃんとできてるよ
それは本当に間違いないの
この時を待ってたの
きっと助けてくれるはず
覚悟ならちゃんとできてるよ
その人のいいとこも
悪いとこもなにもかも
ひっくるめて好きなんだ
この時を待ってたの
ねえだから
お願い手を繋いでよ

[Verse 2]
その人がそばにいてくれないと
心の中がごちゃごちゃで
なにがなんだかわからない
だからお願い聞かせてよ
やっと出会えた人だから
置いて行ったりしないって
すっと気持ちが楽になる
そういう瞬間に出会いたい
だからお願い聞かせてよ
運命の人だから
置いて行ったりしないって

[Pre-Chorus] + [Chorus]

[Bridge]
そんなの知りたくないよ
ひとりになった時
どんな気持ちになるのかなんて
だからお願い急いでね
でなきゃとても耐えられなくて
それに負けてしまいそう
だけどその人が
そばにちゃんといてくれたら
色んな不安も消えちゃうの
その人のせいでいつまでも
待ちぼうけなんじゃないかとか
傷つくんじゃないかとか
ダメになるんじゃないかとか
そんなのが
全然気にならなくなるの

[Chorus]

(余談)

日本語ネイティヴとして日頃はあまり意識していませんが,日本語の場合,文の語尾で話者がその内容をどのように捉えているかをある程度推察することができます。例としてJess told me to go home.という文が挙げましょう。直訳すれば「Jessが私に帰れと言った」となります。

英語の場合,この文からわかるのは:
①Jessという人物が
②話者である私に
③「帰れ」と言った
といったことだけで,話者(me)が相手(Jess)に「帰れ」と言われたことをどう捉えているかははっきりわかりません。

これに対して日本語の場合には「ジェスに帰れと言われた」と「ジェスが帰れと言ってくれた」では明らかに「帰れ」と言われたことに対する話者の感じ方が違い,前者ではそのことを不本意に感じているようにも取れますが,後者ではそのことに明らかに感謝しています。

実は和訳,とりわけ歌詞の和訳をする上では,こう言った点が非常に重要で,上のどちらの訳文を採用するかで内容がかなり違ってきます。

2011年9月に思いつきで始めたこのサイトですが,気が付くともう3年半以上続いています。時間を取られる上に金銭的なメリットがあるわけでもないにもかかわらず,これほど続けて来られたのも,和訳と言う作業にこういった面白さがあるためなのかもしれません。

5 件のコメント:

  1. いつもありがたく拝見しております。私は英語がさっぱりなのですが、ほかの国の音楽は大好きなので度々こちらにお邪魔して納得したりびっくりしたり楽しませていただいております。
    特にBruno Marsは同じ年でこんな人が世の中にいるのかと衝撃を受け、こちらの和訳でより強まったのが記憶に新しいです。
    思いつきで始めて3年半とのことで、ありがとうございます、お疲れ様です。今後ともどうぞ気になる曲を教えてください。楽しみにしております。

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    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。シズル感溢れる画像があるわけでも,株やFXで儲ける秘訣や有名人のゴシップが聞けわけでもない地味なサイトですがお役に立ててなによりです。

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  2. すばらしい歌詞の和訳だと感心しました!!こんなに丁寧に日本語と英語の表現について詳しく書いてくれているサイトは初めて見ました!これからも、更新楽しみにしています♪

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    1. コメント並びに過分なお言葉ありがとうございます。私は言語を専門に学んだわけではないので,ここで述べていることもあくまで素人が面白いと思ったことに過ぎず,誤っている可能性も多分にありますが,そう言ってくださると大変励まされます。ありがとうございました。

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  3. I'm ready for this, I need you all in の部分ただ、単純に訳してるだけじゃなく物凄く繊細に訳してるくれたり。いつも更に更に曲を好きになれます。いつもありがとうございます(T . T)

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