2014年12月25日木曜日

I Hung My Head スティング (Sting)

少し聴くだけで,StingによるオリジナルとJohnny Cashのカヴァーの違いは明らかです。後者は普通の4分の4拍子なのですが,前者のリズムはかなり変則的で,それが8分の9拍子であることに気付かないと,なかなかリズムを取ることができません。音楽に詳しいわけではありませんが,このせいで落ち着かない気分になり,またそのことによって主人公の行動の結末が暗示されているように思えてきます。
Just listening to the original and the Johnny Cash cover for a minute, you'll know the difference.  Although the beat of the latter is standard 4/4, the former is pretty offbeat.  It's not very easy for you to keep rhythm until you realize the original is written in 9/8 meter.  I don't know much about music but it makes me feel a bit unsettled and that hints the consequence of what the protagonist did.
I Hung My Head  (Sting)
(Johnny Cash Cover)


Early one morning with time to kill
I borrowed Jeb's rifle and sat on the hill
I saw a lone rider crossing the plain
I drew a bead on him to practice my aim
My brother's rifle went off in my hand
A shot rang out across the land
The horse he kept running, the rider was dead
I hung my head, I hung my head

I set off running to wake from the dream
My brother's rifle went into the stream
I kept on running into the salt lands
And that's where they found me, my head in my hands
The sheriff he asked me "Why had I run"
Then it came to me just what I had done
And all for no reason, just one piece of lead
I hung my head, I hung my head

Here in the courthouse, the whole town is there
I see the judge high up in his chair
"Explain to the courtroom what went through your mind
And we'll ask the jury what verdict they find"
I said "I felt the power of death over life
I orphaned his children I widowed his wife
I beg their forgiveness I wish I was dead"
I hung my head, I hung my head

Early one morning with time to kill
I see the gallows up on the hill
And out in the distance a trick of the brain
I see a lone rider crossing the plain
He's come to fetch me to see what they done
We'll ride together til Kingdom come
I pray for God's mercy for soon I'll be dead
I hung my head, I hung my head

ある日の朝早く
暇つぶしにライフルを
Jebからちょっと借りてきて
丘の上に座ってた
そうしたら
馬に乗ったひとりの男が
平原を横切って
やってくるのが見えたから
そいつを目がけてライフルの
照準を合わせたまま *
狙いをつける練習をした
そうしたら
借りてきたそのライフルが
ひとりでに
この手の中で火を噴いた
銃弾の飛ぶ音が
辺り一面こだまする
そいつの乗っていた
馬はそのまま走ってたけど
乗ってたやつは命を落とした

悪夢から目を覚まそうと
その場から逃げ出した
ライフルを川に捨て
そのままずっと走り続けて
地面に塩が噴き出すような
そんな場所まで逃げてきて
そこで頭を抱えていたら
やつらに見つかったんだ
保安官に聞かれたよ
「なんでお前は逃げたんだ」って
その時やっとわかったよ
自分が何をやったのかって
理由なんてどこにもない
小さな鉛の固まりが
たったひとつ飛び出しただけ
それで頭をうなだれた

町中の人間が
この法廷にやってきた
椅子に座った裁判官が
上からこっちを見下ろしてる
「何を考えてたかここではっきり述べなさい。
その後で陪審に出た評決を訪ねます。」
それでこう答えたよ
「死んだ方がいい気がします
お子さんからはお父さんを
奥さんから旦那さんを
私は奪ってしまいました
どうか家族の皆さん許してください
本当に死んでしまいたい」
そう言ってうなだれた

ある日の朝
丘の上にある
絞首台を眺めてた
すると遥か遠くから
頭の見せるマボロシで
馬に乗ったひとりの男が
平原を横切って現れた
やってくるのが見えてきた
そいつは事の結末が
一体どうなったのか
そのことを確かめに
俺のところへやってきた
この先いつまでも
一緒に馬に乗ったまま
やつとは離れられなくなる
どうか神様お願いですと
そこで必死に祈ったよ
もうじき死んでしまうから
この頭(こうべ)を垂れて

(補足)

*bead・・・銃(ここではライフル)の照星(銃の前方につけられた照準器)

(余談)

この曲は子どもの頃西部劇好きだったStingがカントリー風に書いた曲らしく,そのために舞台設定や物語の流れに西部劇の影響が見て取れますが,この歌詞の白眉は,なんといっても連の最後に繰り返し登場するI hung my headという表現でしょう。

この部分,最初は「頭を抱えた」「うなだれた」という意味なのですが,最後の最後で全く別の意味に変わる上,主人公の運命についても,この表現を使うことによって,複数の選択肢を与えているからです。

おそらくすぐに思いつくのは,主人公が有罪になり絞首刑になったというものですが,それ以外にも,罪の意識に苛まれた主人公が自殺してしまったという可能性も残されています。陪審員の評決についての具体的な記述が全くないためです。

この点について,海外の歌詞サイトを見ると,前者の説を支持する意見が圧倒的に多いのですが,以下の理由により,主人公は自殺してしまったと考えるのが妥当であると思われます。

I hung my headと主語が一人称である
②その前の連で主人公が次のように語っている

「死んだ方がいい気がします,
お子さんからはお父さんを
奥さんから旦那さんを
私は奪ってしまいました
どうか家族の皆さん許してください
本当に死んでしまいたい」

③いかに西部劇が舞台であると言っても,お尋ね者などの犯罪者でない限り,過失で人を殺してしまったという理由(manslaughter 故殺)だけで死刑になることはあまり考えられない。また仮に主人公が犯罪者であったとすれば,誤って人を殺してしまったからといってこれほど後悔の念にかられることもない。

それはともかく,こういったある種の「驚き」を感じさせる例としては,この曲の他にも,EminemのStanやBruno MarsのWhen I Was You Man,などを思いつきますが,この曲の歌詞は,それらと比較しても,同一の表現を使いながら全く別の意味を感じさせるという点で一歩も引けを取りません。英語教師(日本で言えば国語教師)であったStingだからこそ書けた見事な歌詞だと思います。

9 件のコメント:

  1. いつも楽しく拝見させていただいてます。

    高校の音楽の授業で、音楽の先生には珍しい強面の男の先生にこの曲をきかせてもらいました。そういった条件だったので、曲を聞く前に歌詞を読むことができたのですが「暗い曲なのだろうなー」という予想に反し、メロディーラインは美しく、こんな歌もあるのか、と感動した覚えがあります。
    今となっては少し古い歌ですが、最近ロックではこういうインパクトのある曲が少なくなってしまった気もするので、温故知新の四字が思い浮かぶ今日この頃です。

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    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。この曲を含めStingの曲は,そのメロディーもさることながら,特に歌詞が素晴らしく,内容豊かであるにもかかわらず,私のような英語を母国語としない人間にも大変理解しやすい点が特徴です。さすがに元国語教師の経歴は伊達ではないようです。

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  2. いつも勉強させていただいています。
    『バスターのバラード』というコーエン兄弟のNetflix映画に、そのインストゥルメンタルテーマ曲、そしてエピソードの中でブレンダン・グリーソンが歌う「The Unfortunate Lad」という曲があるのですが、ジョニー・キャッシュのこの歌を思い出して聞き返すと、どうも同じメロディのように思えます。・・・

    ちなみにサウンドトラックのクレジットでは「Traditional」になっていて、Stingはこの曲に自作の詩を乗せた?ということなのでしょうか??

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  3. (追伸)ちなみに『バスターのバラード』は、オムニバス形式の西部劇です。

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    1. コメント並びに過分なお言葉ありがとうございます。この曲についてWikipedia(https://en.wikipedia.org/wiki/I_Hung_My_Head)などでも調べてみましたが,お話しの内容については残念ながらよくわかりませんでした。ただ件のエントリには「I Hung My Head is a song written by the singer-songwriter Sting」と記載されているので,その情報が誤りでない限り,彼が作ったと考えてよいのではないでしょうか?

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    2. ありがとうございます。
      同じ(似た)メロディに聞こえたのは私の空耳だったのかもしれません笑。というより、むしろジョニー・キャッシュのカバーアレンジの方に何かのインスピレーション(別の曲からの)が働いていたということなのかな、とも思いました。今後とも記事を楽しみに勉強させていただきます!

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    3. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。

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  4. バカラック大好き2022年10月15日 20:30

    知人からこれお前の事じゃないの?と言われて見ました。多分最初の方の高校での音楽の授業で聴かされた、強面の男の先生というのは私ではないか?と思います。
    英語の歌を歌う際に歌詞の意味を考える事は大事だという事で聴かせました。スティングの武道館のコンサートに行き、この曲の変拍子による浮遊感がホンワカしたフォーク風のカントリーウェスタンに聞こえたものの、繰り返し歌われるアイ-フンガー・マイ・ヘッド、注:ハングよりもフンガーと聞こえまして苦笑、僕は首を吊った?なんだこれ?と。コンサート翌日CDを購入して歌詞を読んで驚いたものでした。確か前年の紅白でトイレの神様を聴いて、いい歌詞だなぁと思いましたが、この曲の時系列に並んだ歌詞を淡々と唄いながら最後はタイトルをシャウトしていく流れに、トイレの神様の印象はぶっ飛んでしまいました。
    受験に関係ない音楽の授業の事を覚えていてくれてとても嬉しいです。
    K県A高のNでした。

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    1. コメントありがとうございます。2015年にコメントをお寄せくださったyuu gkg様のおっしゃる音楽の先生が本当にバカラック大好き様であり,そしてこの曲がきっかけでお二人のつながりが復活することになったら私としても望外の喜びです。

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