2013年2月14日木曜日

Russians スティング (Sting)

以前の知り合いにソヴィエト時代に生れたロシア人がいました。彼女に出会う前まで,ハリウッド映画の影響を多大に受けたせいで(というよりおそらく正確には「洗脳」されたせいで)私にとってソビエトは,現在の北朝鮮のような「悪の帝国」だったのですが,彼女が聞かせてくれたソヴィエト時代の日常生活の話はまるで戦前の日本でした。当時ソヴィエトの人々はアメリカが攻めてくるのを大変怖れていて,どうにかしてそのXデーに備えようと必死だったらしい。彼らの日常も日本人のそれと少しも違わない。仕事をして,勉強をして,子どもを可愛がる。違いなんかないと思いました。その時浮かんできたのがこの曲です。
I used to have a Russian friend who was born in her Soviet era.  Heavily bombarded (or practically brainwashed) with the Hollywood stereotype, I believed the country was an "Evil Empire" like current North Korea before I met her.  She told me her everyday life there in the period and what I heard from her sounded like ours before WWII.  People in the Soviet were so scared of being invaded by the US at that time and tried to prepare for the X-day.  Their lives weren't very different from ours.  They work, they study and they love their children.  There's no difference.  This was the song coming to my mind when I heard her story.
Russians  (Sting)
In Europe and America, there's a growing feeling of hysteria
Conditioned to respond to all the threats
In the rhetorical speeches of the Soviets
Mr. Krushchev said we will bury you
I don't subscribe to this point of view
It would be such an ignorant thing to do
If the Russians love their children too

How can I save my little boy from Oppenheimer's deadly toy
There is no monopoly in common sense
On either side of the political fence
We share the same biology
Regardless of ideology
Believe me when I say to you
I hope the Russians love their children too

There is no historical precedent
To put the words in the mouth of the President
There's no such thing as a winnable war
It's a lie we don't believe anymore
Mr. Reagan says we will protect you
I don't subscribe to this point of view
Believe me when I say to you
I hope the Russians love their children too

We share the same biology
Regardless of ideology
What might save us, me, and you
Is if the Russians love their children too

ヨーロッパでもアメリカでもパニック寸前になりかけてる
大騒ぎするのが癖になって
ソヴィエトが口先で脅してるだけなのに
いちいちまともにとりあってる
フルシチョフは「葬ってやる」と言ったけど
信じないね
そこまで馬鹿じゃないはずだ
ロシア人だって同じように
子どものことを思ってるなら

オッペンハイマーが開発した
核兵器という危険なオモチャから
どうにかして息子を救いたい 犠牲になんかしたくない
人が自然に感じることは
人の力では変えられない
「こうだ」と押し付けるなんて無理なんだ
東と西,両陣営の向こうとこちら
属する体制は違っても
同じ人間なんだ 変わらない
イデオロギーなんて関係ない
ウソじゃない 信じてくれ 
ロシア人だって同じように
子どもがかわいいはずなんだ

歴史をどんなに遡って
探してみても見つかるわけない
「その時」に大統領が言うべきセリフなんて
前例なんかないんだから
「勝てる戦争」なんてものがあるわけない
そんなウソ,もう誰一人信じてない
レーガンは「守ってやる」なんてぬかしてるけど
そんなことあるわけない
ウソじゃない 信じてくれ 
ロシア人だって同じように
子どもがかわいいはずなんだ

東と西,両陣営の向こうとこちら
属する体制は違っても
同じ人間なんだ 変わらない
イデオロギーなんて関係ない
この世界を救うことだって夢じゃない
ロシア人だって同じように
子どものことを思ってるのなら

(補足)

この曲の「本歌」はSergei ProkofievのLieutenant Kije//Romanceという曲です。


2010年World Entertainment New NetworkのインタヴューでStingは,衛星を使ってソヴィエトのTVを見たことがきっかけでこの曲を書いたと語っています:
大学に友人がいて,そいつがロシアのTVの衛星信号を盗んだ。よくビールを飲みながらこの小さな階段に腰掛けてロシアのTVを見てた・・・ある夜はセサミ・ストリートみたいな子ども番組しかやってなかったけど,その番組が子ども向けにきちんと作ってあることに感動した。今現在戦ってる相手(アルカイダ)には(こういう)同じ倫理観がないのが残念だ。
In his 2010 interview with World Entertainment News Network Sting admitted that the song was inspired by watching Soviet TV via satellite.
I had a friend at university who invented a way to steal the satellite signal from Russian TV. We'd have a few beers and climb this tiny staircase to watch Russian television... At that time of night we'd only get children's Russian television, like their 'Sesame Street'. I was impressed with the care and attention they gave to their children's programmes. I regret our current enemies haven't got the same ethics.
(余談)

リード文で述べたような理由もあって,個人的にはこれが一番好きなStingの曲かもしれません。とにかく「Russians love their children, too」と聞いた時,いわば世界が180度ひっくりかえったような気がすると同時に,情報を鵜呑みにすることの恐ろしさも感じました。その意味で私にとってはepoch-makingな曲です。

ロマンティックな曲ではありませんが,ヴァレンタインデーに相応しい曲だと思ったので取り上げました。

7 件のコメント:

  1.  持っているベストアルバムに入っていて、もう何百回と聞いている曲ですが、内容をきちんと考えたのはこれが初めてでした。冷戦を扱っていたものだとは・・・。微妙に均衡を取りつつ緊張していた当時の空気を思い出します。詩の中で、その頃の社会情勢のことをいろいろ言っているのですが、結局「ロシア人だって同じように子どものことを思ってる」という、このシンプルな一言で決まりです。リードや余談でもおっしゃっておられますが、その通りだと思います。この一言こそが、これまでもこれからも、どこの世界の人々にとっても同じ普遍的な事実であって、この一言のパワーと、あの物悲しく美しいメロディでゴールまで持っていかれてしまう曲なんだ、と思いました。(あのメロディーに本歌があったというのも初めて知りました)
     2月14日の投稿は、当然ラブソングだろうと思っていました。ごまんとあるラブソングから、どんな切り口でどの曲を選んでこられるのかと思いつつ訪ねてみると、この曲だったので、とても驚きました。でも、そのpoint of viewをsubscribeします。バレンタインデーにまさにふさわしい曲。拍手喝采です。

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    1. コメント並びに過分なお褒めのお言葉ありがとうございます。彼女の語るロシアの人々はハリウッド映画に登場するいわゆる「ロシア人」とは全く違ったごく普通の人々でした。
      それにしても,冷戦の只中にあった当時,このことにいち早く気付いて名曲を作ったStingの慧眼に驚かされます。

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  2. ホレイショTaeko2013年3月11日 20:58

    はじめまして。TwitterでフォローさせていただいておりますホレイショTaekoと申します(そうです、某マイアミ方面の警部補のお名前からとりました!亡くなった母ともども、片膝ついたポージングが世界最強に似合うホレイショ様が大好きでした。最終回、実に残念でした(>_<)。ああ~、私もカリーの可愛い声が欲しい)。
    え~、()内に異常に長い蛇足が入りスミマセン。。。元に戻って、
    私もこの曲がStingの曲の中でいちばん好きです。高校時代、英語の得意なクラスメイトがこの曲の入ったカセットテープ(ヤバイ、年がばれる!)を持ってきて、「日本の若い人は愛だの恋だの歌ってるのばっかだけど、外国には冷戦を取り上げた歌を作って歌う人がいるんだ!」と熱意を込めて手渡してくれたことを思い出します。
    比較的新しい曲の多かったvestige様のBlogにてこの曲の翻訳が読めたことが大変嬉しく、初めてですが勇気を出してコメント致しました。

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    1. コメント並びに過分なお褒めのお言葉ありがとうございます。実はそのお名前,あまりのインパクトに既に存じておりました。なにしろオヤジスキーの方々の間で絶大な人気を誇るかの「ホレ様」とあっては,忘れようにも忘れられません。
      以前どこかでも申しましたが,ここ本館の選曲基準は,私個人が面白いと思えばOKという実に緩いものです。また私自身が音楽に疎いので,ヒット曲であっても,私が全く知らないということも頻繁にございます。ために,取り上げる曲の年代も,80年代やそれ以前の場合もあれば,ジャンルも,ラップからカントリー,はてはミュージカルやアニメーションとバラバラですが,それが本館の存在意義ではないかと思っております。
      したがって,ホレイショTaeko様に喜んでいただける曲が登場する可能性は決して低くないと思われますので,その際にはまた是非お声をお聞かせください。お待ちしております。

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  3. ホレイショTaeko2013年3月11日 22:52

    早速のご返信ありがとうございますm(__)m
    実はベストヒットUSA大好き、バンドをやったり、会社の仕事で簡単な翻訳をしたりしておりました関係上、新旧問わず洋楽は大好きで、こちらのサイトには最初TitaniumとOne Dの曲の訳に惹かれてやってまいりましたので、新しい曲の翻訳が本当に有り難く、PC見れた時はいつも拝読させていただいております。特に「師匠」Adam様のお声が大好きな私的には、師匠のMaroon5の訳の回は真剣に(?)拝読させていただいております。ええ、あれはボウリングの曲です、間違いありません!(笑)
    勇気出してコメントしてよかったです。また参りますね。ありがとうございました!

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    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。ホレイショTaeko様をはじめ,皆様から「あれはボウリングの曲に間違いない」というご支持をいただき,己の邪心を恥じ入ると同時に百万の味方を得たような気もいたします。
      今後もまた折に触れ,是非お声をお聞かせくださいますようお願い申し上げます。

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  4. 「裏切りのサーカス」を見たが東西冷戦がわからないとの
    年若い?質問者からの回答に
    こちらのサイトを紹介させていただきました

    RUSSIANSのような曲が、イデオロギーに関係なく
    人々に受け入れらていた時代なんだよ
    誰もが、言い知れぬ核の恐怖を共有していたのだ
    ほんの30年ほど前の世界はこんなだったんだよ
    と具体的に伝えることが、難しい時代にさしかかってます

    今だからこそ、このような曲の意味を正しく伝えていく
    ことの大切さを感じます

    生まれながらに産業ロックとして、消費されていくことを
    潔しとしている音楽と、そうではない使命を
    背負って生まれてくる音楽、ふとそんなことを考えました

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