2012年12月24日月曜日

I Burn For You スティング (Sting)

このヴィデオに登場するOmar Hakimの素晴らしく感動的なドラム演奏をどうやって表現すればいいのか。「最高(epic)」という言葉は浮かぶものの,それだけでは,彼のドラム・ソロを聴いた時の感動は表現できません。なろうことならその場にいたかった!
歌詞も素晴らしく,一読して圧倒されました。歌詞がもたらすイメージが非常に美しかったから。12月なのに,曲を聴いていると夏の夜の涼しい空気が感じられ,潮騒が聞えてくるような気がします。
How can I describe the fantastic and epic drum performance by Omar Hakim in this video?  "Epic" is the word that repeatedly comes up in my mind but I just feel it's not enough to fully express what I felt when I heard his drum solo.  How I wish I had been there!.
As for the lyrics, I was struck with awe when I read them.  The images they brought about were breathtakingly beautiful.  It's December now but I feel the cool night air in the summer and hear the sound of the ocean while listening to the music.
I Burn For You  (Sting)
Now that I have found you
In the coolth of your evening smile
The shade of your parasol
And your love flows through me
Though I drink at your pool
I burn for you, I burn for

You and I are lovers
When night time folds around our bed
In peace we sleep entwined
And your love flows through me
Though an ocean soothes my head
I burn for you, I burn for

Stars will fall from dark skies
As ancient rocks are turning
Quiet fills the room
And your love flows through me
Though I lie here so still
I burn for you, I burn for you
I burn...

ようやくその姿を見つけた
ほの暗い夕闇の中,涼やかな笑顔を浮かべそこにいる
手にした日傘(パラソル)からこちらに向かって影が伸び
その身体からは想いが伝わって来て
やがてその両方が流れ込み
この体と心の中を突き抜けてゆく
ひんやりとしたプールサイドで酒を口にしながらも
心の中は,灼けつくような熱い想いに衝き動かされて
もうどうしようもなくなる

想いを寄せ合う2人は
ベッドの周囲に夜の帳が降りる頃
互いの体を絡めたまま,安らかな寝息を立てる
その想いが流れ込み
この体と心の中を突き抜けてゆく
潮騒を耳にして,頭の中は冴えているが

心の中は,灼けつくような熱い想いに衝き動かされて
もうどうしようもなくなる

やがて夜空から星々も流れ落ちてゆく
太古の昔からそこにある岩が
引いて行く波間からその姿を現すと
静寂がこの部屋に満ち溢れるなか

その想いが流れ込み
この体と心の中を突き抜けてゆく
身じろぎもせず,体をここに横たえていても

心の中は,灼けつくような熱い想いに衝き動かされて
もうどうしようもなくなる

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(補足)

この歌詞を理解する上で,留意しておかねばならぬ点が2点あります:

①この歌詞のテーマは炎と水(=高温・低温)の対比である点,そして
②時間の経過とともに,歌詞が進んでいくという点です。

まず①の点ですが,3つある連のうち,最初の連ではプールが,次の連では,大海原が「水」を表すものとして登場します。このため,最後の連には,具体的に「水」を連想させる言葉は出て来ませんが,訳文にはあえて「波」という言葉を使い,「水」との関連性を匂わせました。同時に,flow(突き抜ける)やdrink(酒を飲む)という単語も「水」を感じさせます。

次に②の点について述べると,最初の連では,evening smile及びshadeという単語から,日暮れ後間もない時間であることが読み取れますが,次の連では,night time, bed, sleepという単語から,時間が経過していることがわかります。時間的には深夜ということでしょうか。

これが第三連になると,stars will fall from dark skiesという描写から,夜明けが近づいていることがわかります。夜中には天上にあった星々も時間の経過とともに降りてきて,夜明けとともにやがて地平線に消えてゆくからです。

また,この詞を理解する上で,重要であると思われるのが,舞台が屋外から屋内へと移動しているという点です。パラソルやプールが出てくることからもわかるように,最初の舞台は屋外です。これが第二連では,寝室すなわち屋内に移動します。そしてこれは私見ですが,最終連では,舞台は主人公の心の中になるような気がします。

おそらくこの曲の舞台はイギリス南部のDorset Beach並びにDevon Coastと思われます。三畳紀,ジュラ紀,白亜紀の中生代の地層が連続して見られる世界唯一の場所で,世界遺産にもなっています。したがって,歌詞に登場するrockはそこに散らばる化石のついた岩であると解釈しました。

(余談)

Shape of My Heart, Roxanne, Tomorrow We'll Seeとこれまで3曲ほどSting (The Police)の曲を取り上げてきました。その3曲のいずれもが,比較的硬いテーマを扱っているにもかかわらず,歌詞という点に限って言えば,比較的理解しやすいものでした。

ところが,この曲は違います。描写が散文的というよりも詩的で,イメージを多用しているため,具体的にどういう状況かがわかりにくい。

とりわけ「Stars will fall from dark skies, As ancient rocks are turning」の部分に関しては,それが一体何を意味しているのか,ネイティヴでもよくわかっていないようです。

したがって,この曲に関して言えば,私の訳文は多分に私個人の解釈によるところが大きく,ために違和感を覚える方もおいでになるかもしれませんが,それはいわば詩の解釈にもれなく付随するトレード・オフとお考えくださいますようお願い申し上げます。

しかしなぜよりにもよってクリスマス・イヴにこの地味な曲なのか。その疑問はごもっともですが,実はそれには理由があります。

というのも,クリスマスや大晦日といった「華やかな」イベントのある日は,当然皆様にも「華やかな」イベントがあるわけでして,ために当然のことながら本館のヴュー数が落ちます。(既に昨年経験済みです)。

であるならば,むしろ個人的な思い入れはあるものの,一般的にはさほど熱狂的には迎えられないであろう曲を取り上げた方がお互いハッピーというものではありませんか。

・・・とまあもっともらしい理由を書き連ねましたが,有体に言ってしまえば,日高昆布を手にクリスマス前の華やかな街を彷徨ってしまった私個人の「ささやかな抵抗」かもしれません。

8 件のコメント:

  1. いいですねえ。リアルタイムでは、自分はStingの素晴らしさなんて、全く理解できていなかったんだなあ、と思うばかりです。ただ、何となく聴いていたか、ちょっと背伸びをして聴いているふりをしていたのかもしれません。でも、今は、違う。この曲の良さが本当によくわかる、と思います。リード文でもおっしゃっていることですが、詩の中の静寂と海と夜空のイメージが圧巻です。その静けさの中で登場人物達の思いの強さが際立って、言葉が心に刺さってくるようです。補足の、温度と時間の経過、という見方、ここまで把握できていたら、それは良い訳になるはずです。音も良くて、確かにドラムが素晴らしいです。いてもたってもいられないような気持ちになります。

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    1. コメントありがとうございます。本館を1年以上続ける過程で,私にとって一種のbreakthroughになった曲がいくつかございます。例えば,メタファーを普通の表現に置き換えたSet Fire To The Rain,さほど認知されておらず解釈の手がかりがほとんどなかったSooner or Later,歌詞の世界が眼前に迫ってきたWhat Sarah Saidなどです。無論これ以外にもそういった曲はいくつも存在いたしますが,私に「詩の構成」というものを理解させてくれたという意味で,この曲もそんな忘れられない曲になると思います。

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  2. はじめまして。私もこの映画「ブルー・タートルの夢」でのオマー・ハキムのドラム・ソロたまらなく好きです!映画自体も凄く好きで何度も観ているのですが、その中でもさらにドラム・ソロのシーンは繰り返し観ています。I Burn For You は元々スティング初主演映画"Brimstone & Treacle"の中で使われていた曲ですよね。ご覧になりましたか?事故で寝たきりになり意思表示もできない娘を抱えた夫婦の家にスティングがある日突然やってきて住み着いてしまう。そして、まぁ、それだけはやっちゃいけねぇという感じの人でなしな行為をするんですけど、それによって娘は、、という、あまり気分の良いとは言えない映画ですが、この歌の歌詞を拝見して、あ、なるほど、と繋がる部分を感じました。因みにファンの間では「スティングのナマのお尻が見られる」と言う事で話題になった映画です、笑。 長々と失礼しました。

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    1. コメントありがとうございます。寡聞にしてお話しの映画はどちらも存じませんでしたが,nemuri様のコメントを拝見すれば,大変なStingファンでいらっしゃることは一目瞭然です。Stingの曲に関しては,これ以外にも,Shape of My Heart, Roxanne, Tomorrow We'll Seeの3曲を取り上げておりますし,今後もおそらく取り上げていくと思います。
      個人的にdiehardなファンの方やオタクな方に,非常に親近感を覚える方なので,是非ともまたお話をお聞かせくださいますようお願い申し上げます。
      また,別館(twitter)でも余談を展開しております。お時間があればそちらへもおいでください。お待ちしております。

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  3. この曲を数千、いや数万回は聴いた、自称「日本一のSting狂(笑)」から、この曲に関する薀蓄をいくつか。。。

    この曲、"I burn for you" は元々2つの別の曲でした。

    Stingは1976年にThe Policeを結成する前は、地元New Castleの高校で英語(即ち国語)教師として働きながらLast Exitというバンドで歌ってました。"I burn for you"はその当時に書かれた曲で、高校の教室で生徒達に試験をやらせている間に書いたという逸話が残っています。
    そのオリジナルがこれです:http://chirb.it/I5072M
    最後まで聞けば判りますが、オゥマー・ハキムがドラムを叩いてるライブ映像で演奏されてる、曲の最後に繰り返されている8小節の「ウォウォッウォー」というリフ(ハキムが凄いドラミングで盛り上げてる部分)は元々"I burn for you"という曲の一部ではありませんでした。

    その数年後の1982年、The Policeで成功したStingは、"Brimstone and Treacle"という映画に主役俳優として出演しました。(映画のトレイラー: http://youtu.be/tCRgK6PyjQY )
    この映画でStingは「羊の仮面を被ったインキュバス(ie. 美しい顔をした悪魔)」という役柄を演じていますが、後のインタビューで「僕は演技をする必要がなかった。マーティン(役名)は僕自身だよ」と語っています。

    その"Brimstone and Treacle"のサントラはSting自身(The Police)が担っていて、そのテーマ曲がこれです;http://youtu.be/OUbGuerSE8o 

    お気付きでしょうか? あのライブバージョンで曲の最後にベースに持ち替えて「ウォウォッウォー」と繰り返しているメロディは、この映画のテーマ曲として、"I burn for you"とは別に作られたものなのです。(曲名は"Brimstone and Treacle")

    そして、この2つを最初に合体させた、The Policeのバージョンがこれです:http://youtu.be/7cpkTT3W1V8
    映画のOSTにも挿入歌として入っていて、たしか"Message In A Bottle"のB面としてリリースされています。 炎がメラメラと燃え上がる感じがして、私はこのバージョンが一番好きです。
    epicといえば、私はコウプランドの、このドラミングもセンスが光ってて凄いと思います。

    更にこのThe Policeバージョンを数年後、ソロになってからリアレンジしたのが、映画"Bring On The Night"で使われた(ハキムの)ライブバージョンというわけです。


    歌詞の解釈ですが。。。
    映画より先に作られた"I burn for you"という楽曲と、"Brimstone and Treacle"という映画は双方とも「2極の相反する概念の同居」がコンセプトになっています。(水と炎 vs 蜜と硫黄)
    楽曲と映画いずれも、「表面上は涼しげだが、中身は激しく燃え滾っている」様子を表現しています。
    実は前途Last Exitオリジナルでは、歌の核心部分とも言える2行のブリッジがあります:http://is.gd/26aQbY

    "Deep in my heart theres a whole world that's turning
    and inners to you which has kept my soul yearning..."
    心の奥底では、君を切望し続けた内なる世界があって。。。

    この短いブリッジ部分は、The Policeのバージョン以降、なぜかなくなっていますが、「外観はクールだが実は内面では燃えるようなLustが渦巻いている」という状態を、水と火のコントラストによって印象派的な手法で描いている歌詞全体に対して「結局、言いたいことを要約すると、こういうことだよ」と注釈をつけている感じがします。

    というわけで、あの8小節のリフの強さと、ギリシャ神話でも描かれた古典的なイメージをロックという手法で見事に表現したこの曲が生み出されたこと自体が、私にとってepicです。

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    1. コメントありがとうございます。あちこちで申し上げていることですが,個人的にtetz様のような「熱い」方に大変親近感を覚える方でございます。
      流石に「日本一のSting狂」を自認なさるだけあって,その見事な洞察力には驚嘆するばかり。もういっそこの曲の和訳はお任せした方がよかったのではないかとさえ思えるほどです。
      それに加え,その精緻な考察並びに豊富な背景知識。まるで音楽雑誌のコラムを読んだような充実感がございました。
      さて,前の方へのお返事でも申し上げているように,Stingの曲は今後も継続的に取り上げるつもりでおります。どうかその際には,またこちらで素晴らしいお話をお聞かせくださいますようお願い申し上げます。

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  4. 宇多田ヒカルさんのクマパワーFMで流れていたのを聞いて、この記事に流れ着きました。
    Stingの静かな感じが表現されてて、和訳めっちゃ素敵です。

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    1. コメント並びに温かいお言葉ありがとうございます。大変美しい曲で,聴いていると歌詞の世界が目の前に立ち上がってくるようです。地味な曲ですがこうして皆様が喜んでくださるので取り上げて良かったと思っております。
      さてこの曲に関しては「薀蓄の館」というラベルを作り,通常の投稿とは別のカテゴリで詳しく取り上げておりますので,お時間があればそちらもご覧ください。

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